クリエーティブ・ビジネス塾37「資本主義の未来」(2018.9.3)塾長・大沢達男
「資本主義の未来」の問題点は何か?
1、資本主義の未来
日本経済新聞が、「資本主義の未来」というタイトルの5人の論考を掲載しました(日経8/6~8/10)。
1)岩田一政日本経済センター理事長・・・現代資本主義は3つの挑戦を受けている。ポピュリズム(大衆迎合主義)、デジタル国家主義(中国)、AI(人工知能)である。
2)渡辺博史国際通貨研究所理事長・・・モノ、カネ、ヒト、情報が国境を越えて動くグローバリゼーション(可動性)は2010年代になり、その逆行、揺り戻しにあっている。健全な可動性を確保すべきだ。
3)吉川洋東大名誉教授・・・戦後の高度成長が証明するように、成長をけん引するは消費である。まず、不平等・格差是正のための改革。そして高齢化による格差を拡大させてはならない。
4)太田弘子政策研究大学院大学教授・・・「市場の失敗」のために規制がある。しかし制度の改革が遅れると「政府の失敗」が生じる。第4次産業革命は変化のスピードが速い。日本経済は挑戦を受けている。
5)S・ヴォーゲルカリフォルニア大学バークレー校教授・・・有能な官僚、官民の結びつき、そして規律ある労働力など、日本型制度の長所は、デジタル時代でも陳腐化していない。
2、ポピュリズム、デジタル国家主義、AI(岩田一政の論考から 日経8/6)
まずポピュリズム。岩田は衝撃的な図表を紹介します。「ポピュリズム指数(ポピュリスト/反既成政党の得票率)」(Bridgewater Associates, LP「Daily Observations」)です。
1910年代に10%以下だったポピュリズム指数が、第2次世界大戦直前の1930年代には40%に跳ね上上がっている。そして戦後は5~15%以内で推移。ところが2015年以降になるとポピュリズム指数は、大戦直前のように35%に近くまで上昇。重大な警告です。
なぜポピュリズムは台頭したか。第1に、金融資本主義の過度の拡大によるグローバルな金融危機の発生と富の偏在。第2に、デジタル技術とそれに秀でた人材を活用するスーパースター企業と技術革新に乗り遅れた企業とのパフォーマンス格差拡大。因に、トランプ米大統領を支持する層は、技術革新とグローバル化に乗り遅れ相対的な社会的が地位が低下した人たちです。野口は、リベラルな国際秩序の維持にはポピュリズムに依存しない米国型資本主義の再生が求められる、結びます。
次は中国です。デジタル国家主義は、政府による個人の徹底的な監視を可能にし、自由な民主主義システムに代替する「権威主義的社会システム」を作り上げることを可能にしている。さらに中国人民銀行(中央銀行)は、中銀口座を通して電子取引などを決済することを全てのプラットフォーム企業に要請。
野口は、個人のプライバシーを確保し、国境を越えるデータの自由な取引ができるグローバルなインターネットガバナンス(統治)の構築が喫緊の課題だと、指摘します。
もうひとつ野口は、中国の「一帯一路」はモンゴル帝国の世界支配の夢の再来である、警告しています。
そしてAI。AIは深層学習(ディープラーニング)で眼(め)を持ちました。約5億3000年前の「カンブリア大爆発」の再来です。AIの時代が来ます。AIとの融合で人間の能力を飛躍的に高めるAI部門とAIと融合できない非AI部門の「役に立たない」人類。巨大な不平等、大量の失業者。野口は、非AI部門の人々(「役に立たない人類」)の生存のために、資源確保のメカニズムを備える必要があると指摘します。
3、「資本主義」
ところで「資本主義の未来」の「資本主義」って何でしょうか。
○「商品生産が支配的な生産形態となっており、あらゆる生産手段と生活資料とを資本として所有する資本家階級が、自己の労働力以外に売るものを持たない労働者階級から労働力を商品として買い、それの価値とそれを使用して生産した商品の価値との差額(剰余価値)を利潤として手に入れる経済体制」(『広辞苑』)○「資本主義とは、労働力を商品化し、剰余労働を剰余価値とすることによって資本の自己増殖を目指し、資本蓄積を最上位におく社会システム」(『ブリタニカ国際大百科事典』。
驚くべき記述の羅列です。生産手段?労働者階級?剰余価値?マルクスの『資本論』の解説でしかありません。ピントがずれています。それが証拠に「資本主義の未来」を論じた5人のだれもが、マルクスを論じていません。そしてだれもがイノベーション(機械)を論じています。しかしマルクスによれば「機械は、価値を創造しはしない」(『資本論二』p.249 岩波文庫)。やはりマルクスは問題外です。
「資本主義の未来」の問題点は、岩波書店をはじめとするジャーナリズムの、前時代的な左翼体質です。