日本人の生き方と新しい逝き方

クリエーティブ・ビジネス塾45「在宅医療」(2018.10.29)塾長・大沢達男

 

「日本人の生き方と新しい逝き方ー在宅医療バイブル(家庭篇)ー」

 

1、『ズポック博士の育児書』

「育児の聖書」と呼ばれた『スポック博士の育児書』(ベンジャミン・スポック マイケル・B・ローゼンバーグ 暮らしの手帖翻訳グループ 暮らしの手帖社)があります。1946年に米国で発売、日本でも1966年に出版され、団塊の世代の父母によって読まれました。全世界での発行部数は4000万部というのですから、『スポック博士の育児書』は、世界で戦後のベビーブーマー団塊の世代を育てました(あきらに誤った内容は、次々に改訂されたが、今ではその影響力は衰えている)。あれから50年、『スポック博士の育児書』で育児をした団塊の世代は高齢者になり、2025年には後期高齢者になろうとしています。

2、「在宅医療バイブル(家庭篇)」

老いて、病んで、逝こうとする団塊の世代に、「育児書」ではなく、「育老書」、「楽老書」、「養老書」を提案します。後期高齢者が、老いを育み、老いを楽しみ、老いをいたわる書です。

タイトル。「日本人の生き方と新しい逝き方ー在宅医療バイブル(家庭篇)ー」。

なぜ在宅医療が叫ばれるのか。社会的には、人口のボリュームゾーンである団塊の世代後期高齢者になると、病院不足、病床不足になり、病院はパンクするからです。人間的には、老人と病人の生き方と逝き方を自宅で送ることで、より実り豊かなものにしたいからです。

「在宅医療バイブル」という言葉は、川越正平の著書からとったものです。『在宅医療バイブルー家庭医療学 老年医学 緩和医療学の3領域からアプローチするー』(川越正平編著 日本医事新報社)は、医師、看護士、薬剤師、ケアマネジャー、つまり医療の専門家むけに書かれたものです。この企画は、その家庭向けの本です。大ベストセラーが予想されます。

1)老いても病んでも地域で暮らし続ける(川越正平の講演タイトル)。

2)セルフマネジメントで健康に(講演から)。よく生き切って人生を閉じる(『在宅医療バイブル』p.2)。

3)地域包括システム。地域ケアと医師の連携。「治す医療から、治し支える医療」(p.4)。

4)在宅医療で、医療は「生活の視点」を、とり戻す(講演から)。

5)在宅医療は、全人的、包括的な医療ケアを提供する(p.12)。

6)地域は森、家族は林、人間は木、臓器は枝、細胞は葉。

7)看護は、ヒトではない人間、人生のなかの今を生きる(歴史的存在)、家族、友人、地域(社会的存在)、病理学的のdisease(病名)ではなく、患者のillness(不調、苦しみ)(p.81)。not doing well(p.12)。

8)自分の人生は自分で決める(講演から)。延命治療を受けないには(p.398) 

9)患者、家族に生命予後を聞かれたら(p.591)。

10)在宅医療での死亡診断書(p.416)。

以上は、川越先生の講演と著書の中からの抜粋です。

つけ加えて欲しいことがあります。「育児書」には夢がある、しかし「育老書」の結末は死。そこで知的な好奇心を持たせる意味で、日本人としての視点、「森」がある日本の自分です。日本人はどう生き、どう逝ってきたか。全人的に生きるとは、日本の歴史的、社会的な存在として自分を生きることです。

1)まず、「先祖」です。私たちは先祖を神々としてお祈りしてきました。死に逝く老人とは神に近づいた存在です。神さまのご意志を言葉を、伝えることができる力を持っています(『日本人の忘れもの1』p.241中西進 ウェッジ文庫)。敬老の精神です。

2)つぎに「死生観」」です。「山川草木悉皆成仏」。私たちは自然とともに生きてきました。草も木も虫も鳥も動物も人も、死ねば仏になります。そして「輪廻転生」。あの世からこの世へ、魂は不滅です。

3)そして私たちの伝統は、「知」ではなく「情」の人であることです。色恋、もののあわれ、わびさび。日本文化の特質は理ではなく情です。西行吉田兼好松尾芭蕉、偉大な先人たちの生き方逝き方を学びます。

3、樹木希林(1943~2018)

ちょうど一ヶ月前、9月15日に女優の樹木希林さんが75歳で、亡くなりました。最後まで映画の出演を続け、たいした終末治療をうけずに、在宅で家族見守られ、逝きました。

<病が駄目で、健康だけいい人生は、つまらない>。樹木希林さんは、日本人として生き新しい逝き方をしました。「在宅医療バイブル(家庭篇)」には、現代のセレブリティの物語も必要です。