勇気がなければ、意味がない。ジョンソン首相は面白い。

クリエーティブ・ビジネス塾34「ジョンソン首相」(2019.8.19)塾長・大沢達男

 

1、上流階級

かつての英国を支え、ヒトラーと戦ったチャーチル首相を尊敬するボリス・ジョンソン(55)が、保守党の党首選で勝利し、英国首相になることになりました(日経7/24)。

ボサボサの金髪頭、小太り、そして熱弁で爆笑させるジョンソンは、英国のトランプと言われています。

ジョンソンは16年4月に、英国のEU残留を訴えたオバマ大統領を、「彼の視点は祖先のケ二ア人の血筋によってゆがめられている」と評しました(日経7/12)。人種偏見、ギリギリです。

またジョンソンは、ベールをかぶるイスラム教徒の女性を「郵便ポストか銀行強盗にしか見えない」と形容(日経7/12)、こちらはほぼ人種偏見です。

しかしジョンソンは名門イートン校からオックスフォード大学で学んだ典型的なエリート。しかも18世紀の英国王ジョージ2世やオスマン帝国の閣僚を先祖に持つ名家の出身です。英国は階級社会です。生活風習もしゃべる言葉も違います。ジョンソンは上流階級の上、ビートルズヴィダル・サスーンデヴィッド・ベッカム下流階級です。エリートなら、むしろ失言・スキャンダルはあった方がいい、庶民的で親しめます。

2、ブレクジット

ジョンソンが注目を浴びているのは、ブレクジット(英国の欧州連合離脱=Brexit=British+Exit)を主張しているからです。ブレクジットは2016年6月23日(キャメロン首相)の国民投票で決まりました。

2018年11月英政府とEUは「離脱協定案」を発表、しかし2019年1月協定案を英下院は大差で否決、3月にメイ首相は修正案をまとめ下院に提出するもまた大差で否決、さらに3月3度目の離脱協定案がまたまた否決されます。メイ首相は、4月に離脱の再延期をEUに要請、10月末まで離脱延期が認められ、退陣します。英国は「合意なき離脱(No Deal Brexit)」の道を選ぶことになります。

ジョンソンは、総選挙や再国民投票に反対で、「EUが協定案を全く変えないなら、合意なしでEUをでるしかない」、と主張しています。

ブレクジットは英国に有益なのか?

何千人もが仕事を失う。食品、自動車、主要な経済分野は混乱に陥る。世界の先進国では過去数世代経験されなかったような規模と長さの大混乱を招く。クルマのガソリンを満タンにできなくなる。病院で予定の手術を受けられなくなる。英国経済を改善すると予想されるブレクジットはシナリオは存在しない。

なのになぜ、ジョンソンはブレクジットなのか?

合意なき離脱で食料や燃料、医薬品が不足したら、その時こそ英国は逆境の中で一致団結する、ブリッツ精神です。ブリッツ(The Blitz=ドイツ語で稲妻)とは ロンドン大空襲のことです。ドイツ空軍は1941年にロンドンを連続57日間夜間空襲をします。それでもチャーチルと英国民は降伏しませんでした。へこたれませんでした。結束して戦いました。それがブリッツ精神です。

「我々のミッションは10月31日にEU離脱を実現することだ。英国を地球上で最も偉大な国にしたい」

「私の仕事は街をより安全にすることだ。まず警察官を2万人増員することから始める」

「新たに病院20カ所の改修を今週始め、診療を3週間も待たずに済むようにする」(日経7/26)

ジョンソンは英新聞社を経て政治家に転身しました。2008年と2012年に労働党が強いロンドンの市長選で2度勝ち抜き、保守党の選挙の顔になりました。単なる人気者ではありません。実績があります。

3、チャーチル首相

<勇気とは、起立して声を出すことである。勇気とはまた、着席して耳を傾けることである>

<金を失うのは小さく、名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことはすべてを失う>

<勇気がなければ、他のすべての資質は意味をなさない>(チャーチル首相)

「ジョンソン氏は21世紀のチャーチルになるという夢は諦めざるを得ないかもしれない。それどころか、英国版マリー・アントワネットになる危険性さえある」(ギデオン・ラックマン フィナンシャルタイムス 日経7/19)。

ジョンソンを、恥も外聞もなくトップに選んだのは16万人の保守党員。ほとんどが白人で過半が55歳超。偉大な英国の郷愁に浸り、ブレクジットをジョンソンに託しているという(日経7/24)。

ジョンソンにイエスかノーか。ブレクジットにイエスかノーか。

<過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せる>(チャーチル首相)

名家出身、エリートのジョンソンに期待します。直感!勇気!面白そうではありませんか。