ポン・ジュノは、やはり世界ナンバーワン監督の一人だ。

TED TIMES 2020-4 『パラサイト』 1/20 編集長 大沢達男

 

ポン・ジュノは、やはり世界ナンバーワン、監督の一人だ。

 

1、シナリオ

2018年、韓国の上位20%の富裕世帯の平均月収は93万円、下位20%の貧困世帯の平均月収は12万円。そして韓国の非正規雇用率は36%、3人に1人。さらに若者たちは「三放世代」と呼ばれている。貧しさゆえに、恋愛、結婚、出産を諦めたから。正規雇用と家を諦めれば「五放世代」。友人関係と夢を諦めれば「七放世代」となる(町田智浩「それでもプランを、夢をあきらめない。」『パラサイト 半地下の家族』の映画カタログ)。

映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)は、韓国の現実を告発している映画です。半地下に住む貧困世帯と、丘の上の大豪邸に住む富裕世帯の物語です。「半地下」とは北朝鮮の攻撃に備えた防空壕でした。日が当たるのは瞬間、湿気がひどくかび臭い、さらにはトイレの便器が床から1.5メートルの高さにある。国民1.9%(36万世帯)にあたる貧民世帯が半地下に住んでいます。

映画「パラサイト」の格差社会の告発に驚きます。ヨン様ブームの韓流映画、音楽のBST(防弾少年団)の全米チャート第1位、そして日本よりはるかに多い若者が留学する国。韓国をリスペクトしていました。しかし映画は韓国の化けの皮をはがしました。韓国の夢は20世紀で終わっていました。

親に金がないと大学に行けない。いい大学を出てもコネがないといい会社に入れない。非正規雇用だといくら働いても豊かになれない。わかりました。格差社会から目をそらすために、文政権は反日政策をとっているのですね。

2、映画の発明

富裕世帯の若い夫婦のベッド・シーンがあります。妻の背後から夫が愛撫をはじめます。片方の手で乳房を、もうひとつの手を隠部に置いて。乳房に置いた手を夫が動かせ始めると妻が要求します。

「時計回りに!」

思わずニッと笑ってしまいます。いい台詞です。映画に余裕があります。

映画『パラサイト』は映画を発明しています。芸術です。映画に憧れている芸術青年を満足させます。カンヌ国際映画祭で最高賞の「パルムドール」を受賞しています。

まず映画制作以前にシナリオが物語を発明しています。話が面白い。退屈しない。意表をついている。それでいて、韓国社会を告発している、文句ありません。

つぎにカメラ・ワークと編集技術。ポン・ジュの監督の映画では知らず知らずのうちに監督のペースにはめられます。熱いんです。映画の登場人物がそこにいます。作りごとではありません。描けています。リアリティ(現実感)もアクチュアリティ(躍動感)もあります。

そして音楽がいい。もっと広く、音楽、効果と言った方がいい。画像は音が合わさって映像になります。いい画が撮影されそこにいい音がついて、映像が作られ、映画が生まれています。半地下の貧民の映像に、なんの脈絡もなく突如入ってくるオペラのアリア、なんと的を得た選曲でしょう。映画の中で何度かそのセンスの良さに感激します。

3、国際商品

韓国1,000万人動員、フランス170万人動員、米国で外国映画興行収入第1位獲得。『パラサイト』は大ヒットしています。金を稼げる映画。だれもが楽しめるエンターテイメントの映画です。ハラハラ、ドキドキ、サルペンスとホラーがあります。

エンドタイトルが印象的です。英語です。ハングルを使っていません。国際商品として開発されています。やはり韓国の心意気は違う、見習うべきです。

私の好きな現役の世界の映画監督がいます。レオス・カラックス(フランス)、ソフィア・コッポラアメリカ)、トラン・アン・ユン(ベトナム)、北野武(日本)、ロウ・イエ(中国)そしてポン・ジュノ(韓国)です。ロウ・イエの新作は6月に公開されます。それまでは、『パラサイト』は私の中でナンバーワンの映画です。

ここまで書いたとき、「パラサイト」がアカデミー賞を受賞したニュースが入ってきました。作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞です。素晴らしい、スタンディング・オベーションで祝福します。外国語作品として作品賞は初めて、歴史的な快挙です。