TED TIMES 2020-15「ホモ・デウスー5」 4/3 編集長 大沢達男
アルゴリズムは、私以上に、私を知っている。その時、どうなる?以下は、『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。
10、意識の大海
シリコンヴァレーではハイテクの権威たちが、神とは無縁でテクノロジーが全ての、素晴らしき新宗教を生み出しつつある。テクノ人間至上主義とデータ教である。まずテクノ人間至上主義を考える。
ホモ・サピエンスはホモ・デウスになるためにテクノロジーを使うべきだと主張する。頭脳を積極的にアップグレードするのである。ゲノムを変え、脳の配線を変え、第二の認知革命を起こすのだ。テクノ人間至上主義者は進化論的人間至上主義者に似ている。
心理学や生物学はWEIRD(西洋の、高等教育を受けた、工業化された、裕福で、民主的な)社会の人々を対象にしてきた。人間至上主義は平均的な人間の平凡な体験を神聖視してきた。人間は人間を知らない、そして人間はコウモリ、クジラの情動や経験を知らない、さらにはその他あらゆる動物の精神状態、広大で馴染みのない大陸がいくつも待ち構えている。コロンブスが未知の大陸を探検したように、私たちは心の惑星の反対側の大海に乗り出す。
ポジティブ心理学は超標準の精神状体の研究を始めた。テクノ人間至上主義は効果的にデータを処理できるようになっても、注意を払ったり、夢を見たり、疑ったりすることができない人間を生み出す、可能性がある。
更なる脅威がある。欲望・意思を制御できるようになったら、その能力を使ってどうすればいいのか分からなくなる。人間の意思と人間の経験が権威と意味の至高の源泉である信じている限り、テクノロジーに対処できない。
11、データ教
株式取引は人間が創り出したデータ処理システムのうちで最も速く効率がいい。誰でも参加できる。世界経済を動かす。すべてを考慮に入れる。自由に情報にアクセスすれば、適正価格が決まる。
共産主義経済は集中型データ処理のモデルだ。それより分散型データ処理の方がうまくいく。
ゴルバチョフの側近がロンドンに派遣された。側近はロンドンのパン屋に人が並んでいないのを見て「パン供給者にその極意を尋ねたい」と質問した。答えは「ロンドンにパン供給の担当者はいない」だった。政府というカメはテクノロジーというウサギに追いつけない。テクノロジーが政治を出し抜く。
イギリスでは有権者が権力がEUに移ったと考えたから、「ブレクジット」に、アメリカでは既成の体制に権力にあると考えたので、サンダースやトランプに、投票した。
実は権力がどこに行ったのかわからない、権力は有権者の元に戻らない、が悲しい現実である。政府は管理者でしかない。市場の手は目に見えない、そして盲目である。
人間は「すべてのモノのインターネット」を創造するための道具である。「すべてのモノのインターネット」は、地球という惑星から銀河系全体へ、そして宇宙へ。宇宙データ処理しステムは神のようなものになる。ホモ・サピエンスは時代遅れのアルゴリズムになる。
新しい価値とは、情報の自由である。自由市場資本主義者が見えざる手の存在を信じたように、データ至上主義者はデータフローの見えざる手の存在を信じている。人間至上主義は起こることすべての意味を自分で見つけ森羅万象に意味を持たせる。データ至上主義者は経験は共有されなければ無価値、自分で意味を見出すことはできない。経験を大量のデータフローにつなげば、アルゴリズムが意味を見出す。価値は経験する事ではない、経験をデータに変えることである。
SF映画のクライマックスでは、エイリアンやロボットやスーパーコンピューターが、理解できないものに負ける。「愛!」。
データ至上主義者は馬鹿げていると考える。急激なホルモン分泌に驚くことなどない。18世紀、人間至上主義が神中心から人間中心に世界観を変えた。21世紀、データ至上主義が人間中心からデータ中心に世界観を変え、人間を主役から外す。人間の頭では新しい支配者のアルゴリズムを理解できない。データ至上主義の批判は21世紀最大の科学的課題になる。データ至上主義は、ホモ・サピエンスが他のすべての動物にしてきたことを、ホモ・サピエンスに対してする恐れがある。
1)生き物はアルゴリズムにすぎないのか。2)知識と意識とどちらが価値があるのか。3)アルゴリズムは私以上私のことを知っている。その時毎日はどうなるのか。