なぜ強い?藤井聡太のなぞ?

TED TIMES 2020-51「藤井聡太」 9/7 編集長大沢達男

 

なぜ強い?藤井聡太のなぞ?

 

1、モーツアルト

藤井聡太は、お世辞のも美男子とは言えません。八重歯で、細目で、垂れ目です。まだ18歳、いかに将棋が強いと言っても、まだ子供です。まだ自覚的に日本語を操っているとは思えません。

棋聖戦を3勝1敗で制したときに、「シリーズを通して勉強になるところが多かった。自分としても成長することができた」、「さらに実力を高めて、よりよい将棋をお見せし、さらなる活躍ができればと思います」(『藤井棋聖誕生』p.7 サンケイスポーツ特別版)と話しました。

王位戦を4連勝で獲得したときには、「4連勝は望外というか、実力以上の結果だとお思います」、「タイトル戦を戦ってみて、より自分の課題が見えた。強くなるという目標はどこまでも変わらない」と振り返りました(東京新聞8/21)。

言葉は謙虚ですが、よそ行きの言葉です。ぶっちゃけの自分の思いをしゃべっていません。つまり教えれている通り、礼儀正しくしゃべっているのだと思われます。

しかしその視線は特別です。話し相手にアイコンタクトしていません。誰も見ていない、何も見ていない、自分の内側だけを見つめています。

天才音楽家モーツアルト肖像画を思い出します。モーツアルトも、ただ内なる神の声だけに耳を傾けている、目つきをしていました。

2、羽生善治

藤井聡太は2002年7月19日生まれです。その名を将棋界で知られるようになったのは、2015年12歳で詰将棋解答選手権チャンピオン戦で優勝してからです。

プロ棋士は、小学6年生の優勝を聞いて心臓が止まるかと思った、と感想をもらすほどの現実離れした出来事でした。

当時、藤井は奨励会二段、プロ棋士も参加する大会でのアマチュアの快挙でした。以来藤井はこの大会で勝ち続け、現在まで5連覇をしています。

2016年史上最年少14歳2ヶ月で4段昇格、プロ入り。そのまま無敗で公式戦最多連勝記録29連勝を達成します。

30連勝がかかった試合は、東京読売新聞本社での大盤解説を見に行きました。驚いたことがあります。200人ほどの観客の半分以上、いや6~7割が女性だったことです。

その昔、天才谷川浩司中原誠名人と戦った千駄ヶ谷将棋会館大盤解説では、暗い通路に小説家の阿佐田哲也と歌手の井上陽水の二人が、黙ってまま座っていました。はぐれものの好きごとで、勝負事、果し合い、殺し合いだった男の将棋は、みんなが楽しむ健康なゲームになりました。

2020年第91期ヒューリック杯棋聖戦で、史上最年少17歳11ヶ月で初タイトル、さらに2020年第61期王位戦で王位を獲得、最年少2冠、最年少8段昇段を果たしています。

中学生のプロ棋士は、加藤一二三谷川浩司羽生善治渡辺明についで、5人目ですが、藤井聡太の記録は、他の4人を全てで上回っています。

3、AI

「トッププロ同士でも、お互い予想される手の範疇で戦うことがほとんどで(中略)、このときは想像できなかった手を指された。こんなこと初めてです(『文藝春秋』2020.9 p.226 「現役最強 渡辺明二冠 史上最年少 藤井聡太棋聖を語る」) 。「終盤で読みない手を指されて負かされるといった芸当を食らったことはありません」(p.227)。「まず読みのスピードが速いこと。他の棋士とは明らかに違います」(p.229)。現役最強は、史上最年少に、両手をあげて、降参しています。

棋聖戦第2局の渡辺明の6六角に対する藤井聡太の54手目「3一銀」が全てでしょう。藤井は攻めの銀を守りに使いました。そのあと渡辺は攻められる一方、90手で投了します。藤井の玉型は全く変わっていません。

AIは、6億手を読んで2一銀に到達したそうです。藤井聡太はAIを上回っていました。

藤井聡太は将棋のモーツアルト、神がこの世に送ったゲームとしての将棋指しです。