将棋の天才、素人にもわかる、藤井聡太の将棋の面白さ。

TED TIMES 2021-34「藤井聡太」 8/26 編集長 大沢達男

   

将棋の天才、素人にもわかる、藤井聡太の将棋の面白さ。

 

1、天才の一手

1)△3一銀

2020年渡辺明棋聖への棋聖戦第2局で藤井聡太が58手目に指した△3一銀『藤井聡太 将棋の未来』p.51(谷川浩司 講談社+α新書)p)があります。

序盤から中盤にかけての、さまざまな攻め手とその準備、そして受け、非常に幅広い手が考えられる局面でした。素人なら完全攻めの手を考えます。

△3一銀は、思いもよらぬ受けの手でした。互角の局面はこれですっかり藤井聡太のものになりました。渡辺棋聖は一度も王手をかけずに投了しています。

△3一銀は「AI超え」の、伝説の手になりました。当時最強のソフトであった「水匠2」は4億手を読んでも、この手を考えることができませんでした。△3一銀にたどり着くために、6億手を読まなくてはなりませんでした。藤井聡太は「AI超え」ました。

2)△8七同飛成(p.96)

2020年木村一基王位との王位戦第四局42手目の封じ手があります。先手の木村王位の銀が藤井の飛に当たっています。飛車が逃げるか銀と交換するかです。2日制の戦いの封じ手であること、もし飛車を切るなら駒損をし、そのまま終盤戦に突入する、飛車が逃げるなら、しばらく中盤戦が続くという、天下分け目の指手でした。封じ手を開けたら△同飛成、まるで素人将棋のような潔い手です。そして藤井聡太は勝ち切ります。

3)△7七同飛成(p.127)

2018年の竜王戦ランキング戦5組決勝、石田直裕を相手にして指した、△7七同飛成です。終盤の入り口、歩を取って飛車を捨てました。もちろん終盤ですから飛車をわたせば、自玉もピンチになります。しかし藤井聡太は自玉に詰みがないこと読み切っていました。驚いたことにこれで勝負は決まってしまいました。ネットでこの対戦はを見ることができます。このあと将棋はしばらく続きますが、△7七同飛成以降の数手で解説者は、石田直裕が投了してもよいと解説しています。衝撃的です。この手は「升田幸三賞」を受賞しています。日本将棋連盟が功績を残した棋士に贈る将棋大賞です。

△3一銀か、△8七同飛成か、△7七同飛成か。あなたはどの手が好きですか。ムッムー。悩みます。私は「AI超え」の△3一銀です。なんだかよくわかりませんが、この手で渡辺棋聖は、まったく攻めることができなくなってしまった、これは確かです。

2、その強さ

藤井聡太 将棋の未来』のなかで、谷川浩司は、藤井聡太の強さを数字をあげて、証明しています。29連勝、驚異的な勝ち越し数、想像を絶する勝率、奇跡的な負け数の少なさ・・・。どれも驚異的です。なかでも光り輝くの「詰将棋解答選手権」、アマチュア強豪だけでなくプロも参加する大会です。小学校6年から5連覇、とんでもない強さです。

「何が違うかわかりません」、「センスが抜群にいいとしか言いようがありません」(羽生善治 p.14)。「天才という言葉を使わないで藤井君について説明するのは難しい」(渡辺明 p.14)。「まず将棋が面白い。全体的に新鮮味がある」(中原誠 p.124)。「将棋に華があります。びっくりするような捨て駒ですとか、才能を感じさせる手が出てきます」(谷川浩司 p.124)

3、将棋の未来

将棋会館の昭和の午前中の対局室は、雑談まじりでした。なかには自分の将棋そっちのけで、他の対局を見に行ったり、おおらかでした(p.16)。ところがいまは序盤から真剣勝負です。序盤はAIで研究されつされています。さらに対局者同志の事前研究があります。将棋の平均手数は110手、ひとりが指す手は55手、そのうち絶対の一手、最善手があるのは、25手。つまり自分の個性が発揮できるのは30手にも満たないのです(p.61)。最強はAIです。

2017年、藤井聡太の30連勝がかかった大盤解説を読売新聞本社のホールまで見に行きました。集まった100人、そのうちの半数以上は、女流棋士をめざす若い女性、子供連れたママなどの、女性でした。彼女たちは藤井聡太になにを期待していたのでしょか。やっぱり人間の方が、将棋より難しい。