TED TIMES 2021-42「宮島達男」 10/23 編集長 大沢達男
宮島達男とは何者だ。なぜ海外で評価される。
1、絵画の断念
宮島達男(1957~)は、東京芸術大学美術学部油画科を卒業しています。佐伯祐三や青木繁に憧れて芸大に入りました。
しかし大学、大学院を卒業した宮島は、油絵をあきらめ、LEDを使ったインスタレーションの作品を作り続けています。
なぜ、画家たちはキャンバスをすてるようになったのか?
一番おもしろくて、説得力があるのは、現代アートの最前衛・村上隆の説です。
「絵画はすべてパブロ・ピカソによって極められてしまった」、だから「どのような絵画に挑戦しようとピカソを超えることはできない」、なぜなら「ピカソは上手すぎる」から。
まあこの冗談は、真実だけに、面白い。
現代芸術家の絵画への断念は、マルセル・デュシャン(1887~1968)により、芸術として理論化され、実行されます。1917年ニューヨーク・アンデパンダン展の、「噴水(泉)」というタイトルの作品は、男性用便器にR.Muttとサインされただけの作品です。
デュシャンにより、宣言された「絵画の時代の終わり」は、1950年代のアクション・ペインティングにより実践されます。絵具は垂らされ、飛び散らされ、汚れとして使われ、絵を描く行為自体が強調されるようになります。
「物質ではなく、行為としての芸術」、「結果ではなく、過程としての芸術」。キャンバスは、世界を再現する窓ではなく、創作行為をする場所、「闘技場」になります。
2、「宮島達男/Art in You(うちなるアートを発見する5つのステップ)」(2008年 株式会社 エスクァイヤ マガジン ジャパン)を読む。
1)あなたの中に眠る「アート」を発見するための第1歩。「外に出て新しい何かと出会う」こと。
(沖縄で劇場経営をする真喜屋力と語る)
映画館「桜坂劇場」を、風通しのいい「出会いの場」としてつくりあげた(p.36)。「桜坂劇場」を訪れることが、一つの経験になりうる、そういう場所になっている(p.46)。
○作品「Counter Skin」・・・ふたり1組のペアになって、お互いの体に数字を書き込んでいく。直に他者に触れることによって、他者を受け入れていくことが狙いである(p.23)。
2)第2のステップは、「自分に生きる」、「自分を信ずること」。
(古代学・辰巳和弘と「益田の岩船」を語る)
ピラミッドは奴隷が作ったのではない、民衆が楽しんで作った。なにかしらの思いを持って作った(p.74)。
○作品「Death Clock」・・・参加者は自分の死ぬ日を設定し、コンピューターに入力し、次いで自分の写真をコンピューターのカメラで撮影する。すると、自分の写真の上で、死ぬ日に向かって、秒刻みでデジタル・カウンターがカウントダウンを始める。死ぬ日に向かって写真はどんどん薄くなり、死の時間を迎えたところでホワイトアウトする。「あなたの人生は、あと何秒ですよ」、それを知ることで、今生きている時間をおろそかにできないと、感じる(p.56)。
3)第3のステップは、「想像力で他者と対話すること」。世界が広がった分だけ世界は共に生きる人々に満ち溢れる。これこそが「平和」の真の姿である。アーティストの肩書を捨てて、一個の人間に立ち返ること(p.91)。
(渡り鳥の研究学者・樋口広芳と語る)
非武装地帯は鳥たちにとっても安全な場所。日本を飛び立った鶴は非武装地帯に1週間から30日滞在する(p.109)。熱帯売雨林を伐採することで、日本にやってくる渡り鳥は少なくなる(p.115)。
○作品「Digital Counter」・・・デジタルカウンターにはゼロがない。ゼロを表示する代わりに暗闇を作り出している。それは死を意味している。「死」を強く意識させることが狙いである(p.125)。
4)第4のステップは、「死を感じ、生を輝かせること」。
人間の生命のあり方を、デジタルカウンターに託して表現してきた(p.126)。
(広島の被爆者・郭福順と語る)
アートは想像力を刺激する。想像力は他者に思いを巡らせその痛みを感じる力である(p.133)。
○作品「Death of Time」・・・広島市現代美術館のための作品。真っ暗闇の部屋の中に、いくつもデジタル・カウンターの赤い光の線になって横に走っている。光は無数の人の命。線は分断され、空虚な闇がある。それは原爆によって宙吊りにされてしまった死を暗示している。「時の死」である(p.127)
○作品「Mega Death」・・・荘厳な宇宙の交響曲である「通常の生死」と、突然破壊された「人為的な大量死」の闇を対比させた。20世紀は、”Artificial Mega Death”の時代だった。
5)あなたのアートを発見する第5のステップは、「あなたのアートを表現し、伝えること」。
芸術はあなたの中にあります(p.162)「想像力」は相手のことを考える力、「創造力」は新しいものを生み出していく力(p.166)。
○作品「HOTO」・・・仏教の「宝塔」をモチーフに生命の奇跡を表現した。鏡面の本体に7色のデジタル・カウンターが焼く3800個設置された「光の塔」である。
3、「Keep Changing」
宮島達男の「Keep Changing」展(Akio Nagasawa Gallery 2021.6.24~10.30)は、観客がサイコロを振って出た数字で、デジタルカウンターの表示の表示を変える、参加型・体験型の作品・イベントです。
「神はサイコロを振り給わず」とアインシュタインは科学の世界の偶然性を否定しましたが、現在の科学は偶然性の世界観を持ちます。
アートはARTIFICIAL(人為的)から生まれましたが、現代アートは、固まろうとするものにアンコントロールな動きをつけ加えることで、あたらしい表現を獲得しています。
デュシャン、ポロックが示した方向がそれです。そのとき個性はどんどん失われるが、個性・テイストは最後まで消滅しない。これは現代美術そのものの動きです。
なぜ、サイコロを振って作品を作るのか?予測不可能、アンコンロール・・・コロナ、東日本大震災・・・が世界の実像だからです。以上は、展覧会への宮島の解説です。
宮島達男の作品制作の3つのコンセプトがあります。「それは変化し続ける、それはあらゆるものと関係を結ぶ、それは永遠に続く」です。
まあどういうことか、よくわかりませんが、いちおう耳に止めておきましょう。
宮島の経歴を見て驚きます。日本より海外で評価されています。第1、1990年にLEDの作品により「アジアン・カルチュラル・カウンシル」に評価されニューヨークへ、第2、1990年「ドイツ文化省芸術家留学基金留学生」としてベルリンへ、第3、1993年「カルティエ現代美術財団」アーティスト・レジデンスプログラムによりパリへ、モテモテです。
なぜ海外で評価されるのか。コンセプトが明快だからです。先ほど紹介した「変化、関係、永遠」のコンセプトは難解ですが、それを時間と空間に置き換えると、俄然明快、解りやすくなります。
デュシャンは、絵画を平面から開放しましたが、空間から解放しませんでした。まして時間から解放することなど思いも寄りませんでした。
宮島達男は、作品で時間を表現し、作品で出会い場を表現し、そして作品で人間と人間のつながり構築することに成功し、アートの革命を起こしました。