社会保障があるのがいい社会、そろそろこのドグマから抜け出すべきです。

TED TIMES 2021-45「新しい資本主義」 11/15 編集長 大沢達男

 

社会保障があるのがいい社会、そろそろこのドグマから抜け出すべきです。

 

1、新しい資本主義

岸田内閣の政策の目玉は、新しい資本主義で、その両輪は、成長戦略と分配戦略です。

成長戦略とは、科学技術立国の実現、デジタル田園都市国家構想、経済安全保障、全世代型社会保障の構築です。

分配戦略とは、働く人への分配機能の強化、中間層の拡大と少子化対策、看護・介護・保育など人々の収入を増やすこと、公的分配を担う、財政の単年度主義の弊害是正です。

様々な政策が羅列されてすが、1980年代以降の新自由主義による市場任せを変え、格差の拡大の是正することが政策の狙いです。

資本主義はもともと大格差社会でした。マルクス・エンゲルスは『共産党宣言』(1848年)で社会主義社会への移行を主張しました。そして第2次世界大戦中の1942年、英国のベヴァレッジ報告により、「ゆりかごから墓場まで」の、現代の社会保障制度のお手本が示され、現代に至っています(日経11/18「大機小機」)。

2、社会保障は善か。

この「社会保障」を真正面から否定する、ノーベル経済学賞受賞の経済学者・ミルトン・フリードマン(1912~2006)がいます。

○「福祉体制のもたらした主要な悪は、それがわれわれの社会の構造にもたらした悪影響だ。それは家族の絆を弱め、自分で働き、自分で貯蓄し、自分でいろいろと新しい工夫をしようとする人びとにさせる誘因を減少させてきた」(『選択の自由』 p.203 M&R・フリードマン 西山千明訳 日本経済新聞社)。○「福祉制度が、巨大な弊害を発生させている理由は、それが被援助家庭に害を与えこれを崩壊させていっているだけでなく、民間の慈善活動という湖にも毒を流し込んで汚染させていっているからだ」(p.196)。○「権力の行使こそが福祉国家の核心であり、それが達成しようと目指しているよい目的でさえも、この悪い手段がやがて腐敗させていく。これこそが福祉国家がわれわれの自由をこれほど深刻に脅かしている理由でもあるのだ」(p.190)。社会保障福祉国家の完全否定です。「社会保障」は正義どころか「邪悪」です。

リードマンの主張は世界に大きな影響を与えました。まず、社会保障の英国、サッチャー政権。そして米国でも、レーガン政権。さらに日本の小泉、安倍の自民党政権です。

いわゆる「新自由主義」批判とは。フリードマン批判です。私たちは再び、社会保障福祉国家の道を歩んでいいいのでしょうか。

3、政治経済で左派の日本人

この半世紀ほどの米英独日の与野党の選挙公約の特徴と変化を調べた面白い研究があります(「分配より成長戦略 注視を」谷口尚子慶大教授 日経10/18)。

結論からいうと、日本の与野党ともその政策は、米英独の政党に比べて、左派であるということです。単一民族、単一言語の日本民族は注意しなければいけません。同調圧力で、日本を社会主義的な息苦しい国にしてしまっています。

谷口論文の詳細を見ます。横軸に政治的な左右を、左派は軍縮・平和・民主主義・政治腐敗除去、右派は国防・行政の効率化をそれぞれ重視します。縦軸は経済的左右を、左派は労働政策・保護貿易・国有化、右派は企業支援・経済成長・インフラ整備・市場経済自由貿易・農業政策・財政健全化を、それぞれ重視します。つまり第1象限は自民党、第3象限は共産党。ところが、ところが、国別の比較になると、米英は第1象限、独は真中、日本は第3象限になってしまいます。

なぜ日本が左派になったのか。理由があります。戦後のGHQ言論統制です。共産主義者が日本の言論を検閲し、統制しました。日本人が愛する映画、『青い山脈』(今井正監督)、『我が青春に悔いなし』(黒澤明監督)には鼻白むリベラルなセリフが登場します。

そしてもう一つ、キリスト教の白人帝国主義があります。天皇神道の日本を否定した白人帝国主義に、日本の進歩派・革新派は帰依しています。

神社とお墓にお祈りしながら、政治経済では白人帝国主義のリベラルを主張するが日本人ということになります。私たちの社会に伝統にあるのは自助、互助、共助です。リベラル的な公助ではありません。