THE TED TIMES 2023-11「ブルー・ジャイアント」 3/17 編集長 大沢達男
アニメ映画『BLUE GIANT』(石塚真一原作 立川譲監督 上原ひろみ音楽)は、今年の代表作の一つになります。
1、才能
10代の3人の若者が、ジャズ・ミュージッシャンに成り上がろうとする、戦いの映画です。
幼少の頃からの音楽経験豊富なピアノの沢辺雪祈(さわべゆきのり)、高校時代に田舎の川べりでひとり練習していたテナーサックスの宮本大、そして宮本大を下宿に置いてあげたために音楽の関わるようになった全く素人のドラムの玉田俊二、「Jass」という名のコンボの18歳の3人の物語です。
見ていて、自らが責められているようで、辛くなるシーンがあります。
「Jass」は、あるジャズクラブへの出演を依頼しますが、断られます。オーナーがその理由を説明します。
「ピアノがダメ」
いちばん音楽歴の長い、そしてテクニックもある、ピアニストの演奏を全否定するのです。
「ただ弾けているだけ、面白くなんともない」
「テナーには何かある。ドラムはただ経験が浅いだけ、なんとかなる」
オーナーの話を聴いていて、辛くなった人は、きっとクリエーターです。才能の仕事をしている人でしょう。
学校の成績、頭がいい、なんていうのはどうでもいい。
歌がうまい、ピアノがうまい、ギターがうまい、(絵がうまい、文章がうまい、センスがいい、ホームランが打てる、160キロのボールを投げる)。
みんな才能です。とくに音楽は才能だけの世界です。才能があっての努力です。
2、上原ひろみ
音楽を担当したのは上原ひろみです。
上原ひろみは無名の16歳のときに、偶然来日していたジャズ・ピアニストのチック・コリアにヤマハで出会い、才能を見出されチック・コリアのラストステージに登場する衝撃的なデビューをしています。
その後上原ひろみは、20歳のときにバークリー音楽大学に留学し、最優等で卒業しています。
『BLUE GIANT』の成功は、上原ひろみの力によるものです。
テナーサックスは、馬場智明(1992~)。19歳でバークリー音楽大学に留学しています。ブルーノート東京、フジロックに出演しています(私はまだ聴いていませんが)。
エンデイング、ピアノなしドラムスとヂュオは鬼気迫るものがありました。素晴らしかった。
ドラムスは、石若駿(1992~)。東京芸術大学卒業です。
そしてピアノと作曲、編曲は上原ひろみ(1979~)。最後の曲は右手一本。ブラボーです。
再び、才能の話に戻ります。
上原ひろみの前にバークリーを最優等で卒業した日本人ピアニストがいます。小曽根真(1961~)です。
小曽根が10代の頃の演奏を聞いたことがあります。
今はない東京・自由が丘のジャズ・クラブ「5(ファイブ)スポット」、ジャズ評論家の「いそのてるお」がやっていたお店です。
「今日はオスカー・ピーターソンが遊びに来てくれています」
「オスカーの演奏は後ほどにして、そのまえに日本の天才ピアニストをご紹介します」
「若干16歳のオゾネマコトくんです」
小曽根はうまかった。けど相手が悪すぎました。その後弾いたオスカー・ピーターソンとは段違いでした。
小曽根誠はピアノ演奏をしましたが、オスカー・ピーターソンの演奏は音楽を創っていました。私たちの耳に届き、心を揺さぶりました。これを才能と言います。
ステージにはベースの「オマスズ」こと「才能」の鈴木勲がいたことを印象深く覚えています。
話を戻します。間違いなく『BLUE GIANT』は心を揺さぶる、才能が作った才能たちの映画です。あなたに「Jass」のような才能はありませんか。あなたを世界が待っています。実は私も、まだ自らの才能を諦めていません。