映画『WALK UP』のような作品を、私も、作りたかった。

THE TED TIMES 2024-31「WALK UP」 8/5編集長 大沢達男

 

映画『WALK UP』のような作品を、私も、作りたかった。

 

1、映画『WALK UP』

なぜ『WALK UP』に関心をもったのかはわかりません。なにかに引き付けられるようにして、映画館に行きました。

映画館に入ってからも、つまらない映画だったかどうしよう、やっぱりちゃんと映画評を調べてから来るべきだった、と反省していました。

だいたいからして、ベルリン国際映画祭銀熊賞5度受賞の名匠ホン・サンス監督の映画なんて、見たこともないくせに映画館にいるんですから。

しかしすべては杞憂(とりこし苦労)でした。映画が始まって10秒で私は、映画が気に入っていました。

タイトルの出し方がおしゃれだったから。別にどうってことないハングルのタイトルだったのですが。

2、私が好きな理由

まず舞台設定がいいです。4階建てアパートのワンフロアごとに、話が進んでいきます。

「WALK UP」とは「上る」ことです。

カメラは、基本的にアパートの中の部屋、気休めのようにビルの前の道路が映るだけです。

登場人物も限られています。

主人公の映画監督・ビョンス、その娘でインテリアの仕事を志願するジョンス。

アパートのオーナー・ヘオク(地下に仕事場)。1階のレストランの店主・シェフのソニ、店員のジュール。2階はソニの料理教室、3階はソニの住まい、そして4階は不動産屋のジョンです。

つぎにカメラワークが気に入りました。

テーブルを挟んで左にビョンス、右にヘオクとソニ。白ワインを飲みながら、取り止めのない会話をする3人を写します。1分、2分・・・5分でしょうか、10分でしょうか。

カメラは全く動きません。

話の内容は、表現のことや映画作りのこと、取り留めのない・・・でも退屈しません。

そしてもう一つこの映画が好きな理由。

主人公の映画監督・ビョンスはモテることです。

3階のソニとも4階のジョンとも監督は、期間を隔ててですが、同棲します。

ベッドシーンはありません。

「監督みたいなトシで、アレが好きな人は、めずらしい」。「高麗人参食べて!そー、よく噛んで食べなければだめよ」。

ジョンと屋上で焼肉を食べながらのシーンです。

このカットの終わりは、「部屋でマッサージしてあげるから」。またまた、よだれダラダラです。

3、映画の発明

なぜ『WALK UP』か?一言で言えば「ぼくもこんな映画作りたかった」、「映画を発明しようとしている」からです。

長回しは、エイゼンシュタインのアンチテーゼです。エイゼンシュタインは1~2秒の静止画の連続を、モーション・ピクチャーにしました。

『WALK UP』のカットは長い。

同じ長いカットでも溝口健二とはまるで違います。溝口には奇跡のカメラワーク、ライティングがあります。

対して『WALK UP』ではカメラワークがありませんが、言うなれば心的風景がダイナミックに動く、モーション・ピクチャーです。

そして『WALK UP』は、抽象度が高い。

4階立てのアパートを動かない。まるで演劇の舞台。しかも画面から色彩を奪いました。ビジュアルをあくまでもストイックにして、登場人物の心を描こうとしました。

ただし残念。ひとつ失敗があります。映画の時系列の「WALK DOWN」(下がる)が不明確、映画『ポトフ』のように処理していれば・・・。