クリエーティブ・ビジネス塾26「パンダ」(2012.7.11)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、パンダ誕生
7/5に上野動物園で、ジャイアントパンダのシンシン(雌)とリーリー(雄)とのあいだに、赤ちゃんが誕生。日本パンダ保護協会名誉会長の黒柳徹子さんも、でかした!、と喜びました(東京夕7/6)。
2匹のパンダは、東京都が年間95万ドル(約7600万円)の費用を負担し、中国から10年間借り受けています。生まれた赤ちゃんの所有権は、中国のもので、2年後には返還しなければなりません。納得いきませんが、そういう契約になっています。
中国外務省の報道局参事官は、今回の出産について「パンダは友好の使者、中日全体の関係改善にプラスに働くことを希望する」と述べました(日経7/6)。パンダは日中の友好の使者。日本人はみな、そのことを忘れています。(それに抗議するかように7/11に赤ちゃんは死にました。)
2、田中角栄首相
なぜパンダが日本に中国から来るようになったか。田中角栄首相のおかげです。
中国では、田中首相を日中の新しい時代を開いた「井戸を掘った恩人」と讃え、学校で教えています。だから中国の若者はみな田中首相を知っています。
1972年2月ニクソン大統領は、東西冷戦の真ただ中にキッシンジャー大統領特別補佐官の根回しにより、中国を訪問し毛沢東主席と会談します。世界は驚きました。世界をさらに驚かしたのは、日本の田中角栄です。72年7月に首相に就任すると、9月には中国を訪問し毛沢東に会い、周恩来総理と交渉し日中共同声明を発表してしまいます。
「日本は戦争を通じて重大な損害を与えたことについて責任を痛感し、深く反省する。」
「中華人民共和国政府は、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する。」
こうして日中の新しい時代は始まりました。そしてその友好の使者として、72年の10月に2匹のパンダ、カンカンとリンリンが日本にやって来たのです。
「井戸を掘った恩人」は、日本の司法と外交当局により意図的に忘却させられています。
1)日中会談の不思議な写真があります。毛沢東と周恩来との重要会談で日本側の主席者は、田中、大平、二階堂の3人だけ、外務省関係者がいません。
2)外務省は、田中角栄・大平正芳と毛沢東・周恩来の会談の内容をすべて消してしまう。「井戸を掘った恩人」の努力を歴史の彼方に葬ってしまいます(矢吹晋横浜市立大学名誉教授『田中訪中40年とチャイメリカ』5/18 進交会教養講座より)。
3)日中共同声明以降、日本と米国は13億人の中国市場への進出競争が始めます。米国はタナカを警戒します。そしてロッキード事件で日本の司法を使い、田中角栄の抹殺に成功します。
3、日中協力
周恩来との交渉のあと田中首相に毛沢東の言った言葉が忘れられません。
「ケンカはしましたか、ケンカをして初めて友だちになれるのですよ」
いまの日中関係はどうでしょう。戦略的互恵関係。「井戸を掘った恩人」は忘れられています。
そして日中関係は、米中関係に完全に負けています。
1)米中貿易は日中貿易の2.5倍になっています。
2)対米債券で中国は日本を上回っている。つまり中国は米国に金を貸しています。
3)ペンタゴン白書は、中国軍の平和維持部隊、テロ対策などの活動を評価しています(前出、矢吹名誉教授)。日本はナッシングです。
「尖閣諸島の問題もまた日本の愚かな外務省の手によって意図的に放置され、今日の危うさに晒されている」(『文芸春秋』7月号)。石原東京都知事は、尖閣問題の本質を中国よりむしろ日本の外交当局の対応にあると論じました。
田中角栄ならどうしたでしょう。原子力発電で、原発建設ラッシュの中国を援助し、尖閣問題をラクラクと解決していたのではないでしょうか。なぜ日本は、宇宙、輸送、エネルギーで、中国と協力しないのでしょか。田中訪中40年、パンダを見たら「井戸を掘った恩人」を忘れてはなりません。