クリエーティブ・ビジネス塾42「柳井正」(2013.11.7)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、1兆円企業
ユニクロを運営するファーストリティリング(ファストリ)が、衣料品専門店として初めて売上高1兆円を超えました(2013年8月期。10/11日経)。
ユニクロは、1984年に山口県で柳井正が「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」として開店した小さな衣料品店から、始まっています。快進撃は、1998年東京のど真ん中、原宿進出、フリース200万枚販売のヒットから始まりました。
ユニクロの特徴は、まずSPA(製造小売業)のグローバル企業、つぎに機能に優れたベーシックな衣料の販売、そして広告と商品の優れたデザインのブランド戦略にあります。
SPA(Speciality store retailer of private label apparel)とは、製品の企画制作から広告販売までを自社で行う企業のことです。衣料品の世界のブランドはだいたいがSPAです。
売上げランキングは、第1位ZARA(インディテックス)、第2位H&M、第3位GAPに続き、第4位ユニクロ(ファーストリテイリング)です。しかしユニクロの海外店舗は、400数十店で全体の3割強、「ZARA」の6000店、「H&M」の2800店には遠く及びません。ファストリは、2020東京オリンピックの年までに売上げ5億円の世界のトップを目標に掲げています。
2、ブラック企業か
快進撃を続けるユニクロに「ブラック企業」の黒い噂があります。ブラック企業とは、過労死、過労自殺、パワハラ、うつ、長時間残業、高離職率などの雇用関係で問題の多い企業のこと、働くにふさわしくない会社のことです。ファストリは、朝7時出社、英語が公式社内用語、名ばかりの管理職、体育会系な社風、そして3年以内の離職率が40数%と高いことが、問題にされています。これに対して柳井正は、ブラック企業なら社員はいなくなっている、会社はダメになる、仕事はできなくなる、と答え、グローバル化が大量離職の原因だとしています。
ユニクロはブラック企業か。まず、ユニクロの店員に不快の人がいたか。押し売りされたことがあるか。わけのわからない敬語を使われたことがあるか。またユニクロの商品で欠陥品をつかまされたことがあるか。価格が高すぎたか。つぎに、ファストリは障害者(身体障害者、知的障害者)の採用で、7%台の断然トップの企業です。内閣府から再チャレンジ支援功労者表彰を受けています。さらに、日本を代表する日本経済新聞は、ユニクロのデザイン・ブランド戦略に学べと社説で書きました(日経10/14)。ユニクロをブラック企業と呼ぶのは、厳しい仕事で自分を発見できなかった負け犬の、遠吠えではないでしょうか。
3、柳井正
少年時代の柳井正は変り者でした。「山川クン」でした。みんなが山に行きたいと言えば川と言う、天の邪鬼(あまのじゃく)でした。父親からユニクロ前身である「小郡商事」引き継いだときにいた数人の社員は1年で全員辞めてしまいました。
いちどオープン間もない新宿の西口のユニクロで「ナマの」柳井正を見たことがあります。店長を呼び簡単に報告を聞いた後、ラックにかかっている衣料に手を触れ、ササ、サッと並びを直すのです。衣料品屋のオヤジそのもの。驚きました。プロの手つきでした。
柳井正は1949年生まれ、団塊の世代、全共闘世代の人です。同世代のコピーライター糸井重里氏との対談で「仕事をするのは自由になりたいから」と、哲学的な発言をしています。この柳井正に共感できます。そしてユニクロの商品展示のヒントにしたのは、米国の大学のブックストア(本屋、生協のような売店)であると告白します。これにも共感します。1970年代、日本の若者は米国西海岸を目指しました。UCLA(カリフォルニア大ロスアンゼルス校)、UCB(カリフォルニア大バークレー校)。ロングヘアとTシャツのヒッピーカルチャーの中で、コットンのスエットを売るブックスストアの何とまぶしかったこと。柳井正の原点はここにあります。
柳井正はビジネスを超えた文化維新に挑戦しています。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。このファストリの企業スローガンこそ、柳井正その人です。