やっぱアメリカはいや、フランスがいい。

クリエーティブ・ビジネス塾46「イブ・サンローラン」(2014.10.29)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、映画『イブ・サンローラン
映画を見ていて、途中から終わって欲しくない、と願うようになりました。映画の世界にいつまでも住んでいたい。好きな世界はここなのだと思うようになっていました。映画とは『イブ・サンローラン』(ジャリル・レスペール監督 仏 2014)。1960年代のパリ、「モードの帝王」の世界です。
アクションやサスペンスではありません。映画にあるのは、ただ新しいものを創造するために生きている、クリエーターの心の動きだけです。季節は秋、時刻は黄昏、おぼろげな光線の中で、男と男そして男と女が、何かを飲み会話を交わします。背景にはジャズやクラッシックのおだやかなメロディが敷き詰められ、登場人物は美しいことだけのために、悩み、傷つき、争っています。
ハンバーガーやコカコーラは飲みません。カリフォルニアの青い空や、白い雲にハイウェイもありません。ここはアメリカではない。かつて、フランスの映画監督ジャン・リュック・ゴダールは絶えずアメリカを攻撃しました。テレビが映画をダメに。アメリカが映画をダメに。アメリカが世界をダメにした。
そうかも知れない。アメリカの音楽とテレビドラマで育ちましたが、自分には、自分が知らない才能が、隠されいる。
2、デザイナー・ブランド
好きなブランド、ファッションデザイナーは誰ですか。エルメス、ヴィトンはロイヤル・ブランド。シャネル、アルマーニはデザイナー・ブランド。イブ・サンローランもデザイナー・ブランドです。サンローランは天才です。17歳のときに描いたクロッキーでその才能を発掘されます。そして運命のいたずら、1957年わずか21歳、クリスチャン・ディオールの急死によってトップデザイナーに抜擢されます。
1961年に独立、イブ・サンローラン・ブランドを立ち上げます。1965年絵画のデザインをそのままドレスにした「モンドリアン」、1966年水兵さんスタイル、ボーダーのTシャツの「マリン」、1968年アフリカの探検隊のような「サファリ」、さらにはスケスケルックの「シースルー」、現在のファッションにつながる話題作を次々に発表します。才能はファッション・デザインに留まらず、テアトル(演劇)、映画、バレーの衣裳に及びました。1990年東京のセゾン美術館で「イブ・サンローラン展」が開かれましたが、そのカタログには、イブ・サンローランの数多くのクロッキーが掲載されています。まさに縦横無尽、柔らかい線、大胆の色彩、明解に語られる造形のテーマ、そしてその前衛性。創造の命が躍動している。生涯かかっても模写を続けたい衝動に駆られました。
3、映画『昼顔』
サンローランのショウをもう見ることはできませんが、映画で彼の仕事を楽しむことができます。『昼顔』(ルイス・ブニュエル監督 仏 1967年)、主演女優カトリーヌ・ドヌーブの衣裳を担当しています。「昼顔(Bell de Jour)」とは、医師の妻である上流家庭の女性が、娼婦に変身したときの名前(源氏名)です。デブの金持ち、SM好きの変態、マッチョな東洋男、ヤクザ、さまざま男性とのベッドシーンがあります。娼婦のコスチュームの基本はハダカ、ファッションと関係ありません。ところがどっこい。「昼顔」は上流家庭の奥様、ハダカになる前のファッションで、サンローランの腕が冴えまくります。
「モード(流行)」ではなく「クラッシック(古典)」です。ダークグリーンの上品なコート、脱げばシンプルなベージュのワンピース、シック!娼婦ではありません。奥様です。男性はこの女性を抱くのです。つぎは黒のエナメルのコート、なかは黒のノースリーブのワンピース。セクシーです。あなたならその奥様に何をしますか。そして極め付きは夫が全身マヒで車イス生活になってしまった時。大きな白い襟、白い袖の黒のワンピースを妻は着ます。まるで女学生みたい。そうです。エクスタシーを封印した生活が始まるのです。サンローランは、エレガンスに包まれたエクスタシーを、ファッションデザインのテーマにしています。
「(イブ・サンローランはファッションで)私たちがじぶんでは持っているとは知らなかったものを創る」(マルグリット・デュラス『MODE 1958~1990 イブ・サンローラン展』セゾン美術館 p.13)。自分が知らない自分。そう、映画『イブ・サンローラン』は、それを教えてくれます。