クリエーティブ・ビジネス塾23「ララランド」(2017.6.5)塾長・大沢達男
「米映画の未来は、デミアン・チャゼルが作るのか」
1、ソフィア・コッポラ
1970年代から今日まで、米映画は3大映画監督にけん引されてきました。
『ゴッドファーザー』のフランシス・フォード・コッポラ、『ジョーズ』のスティーブン・スピルバーグ、『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスです。
3大監督に代わって米映画の明日を作るのは、コッポラ監督の娘ソフィア・コッポラ(1971年生まれ)です。ソフィアは2003年『ロスト・イン・トランスレーション』で衝撃のデビューを飾り、なんとヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝きます。そして2作目の2010年『Somewhere』でまたまた金獅子賞に。さらに3作目の2017年『ザ・ビガイルド』(日本未公開)が、カンヌ国際映画祭で監督賞に選ばれています。ソフィアは
賞獲得率10割の映画の天才です。ソフィア・コッポラは早くも米映画のレジェンドになっています。
そしてこの天才に追いつこうと現れたのが『ララランド』のデミアン・チャゼル監督(1985年生まれ)です。
2、『セッション』(Whiplash)
デミアン・チャゼル監督が注目を浴びるようになったのは、『セッション(Whiplash)』(2014)によってです。原題の『Whiplash』は鞭(ムチ)打ちの意味、ジャズドラマーに魅せられた少年と厳格な音楽学校の鬼教師の苦闘の物語です。鬼教師よって少年は鞭で打たれます。
まず音楽は才能です。リズム、テンポがとれないドラマーは失格です。大編成のジャズバンドですが、ドラマーは2人、3人用意されています。少しでもテンポがおかしいと鬼教師はすぐに、ドラマーの交代を要求します。ですから少年は、手から血が吹き出すまで練習し、本番の練習に備えなければなりません。
つぎに鬼教師は、生徒を罵倒します。「このオカマ野郎!」、「ゲイ野郎!」、「この教室から消え失せろ!」。モノが投げつけられ、イスが飛んできます。
だれかの音程が狂っていると、たったひとりのミスのためにアンサンブルはもろくも崩れます、鬼教師は全員に問いかけます。「自分が狂っている、と思うものは、手を上げろ」。シーン。誰も手を上げません。
鬼教師はパートごとに短い小説を演奏させ。そしてついに犯人を発見する。
そしてこの愛すべき映画は、表現の世界に生きることがなんであるかを問います。クリエーター・芸術家は世界を敵にする仕事です。
少年の親は諭します。<君が憧れるアルト・サックスのチャーリー・パーカー(1920~1955)って、34歳で麻薬中毒で死んだ人でしょう。それがモダンジャズの父?、そんな人を尊敬できるの?>
反論できないのは映画の中の少年だけではない。映画を見ていて少年に感情移入している私たちも反論できない。音楽は才能の仕事だけれど、「ろくでなし」の仕事でしかない。
3、『ララランド』
『La La Land』の「La」とは、Los Angelsのことです。映画の都・ハリウッドがあるロスアンゼルスは、夢が叶えられる魔法の王国、そんなん願いがこめられた映画のタイトルです。
男はジャズへの夢を持っていました。ジャズ・ピアニストとして認められ、成功したらジャズクラブのお店を持つこと。女はミュージカルへの夢がありました。歌い、踊り、演技するオーディションを受け、キャスティングされ、ミュージカルスターになること。『ララランド』は夢を持った男と女が出会い、助け合い、愛し合い、それぞれの夢を実現するハッピーエンドのサクセス・ストーリーのミュージカル映画です。
『ララランド』は、映像を発明し、映画を発明しています。
まず誰もが度肝を抜かれる冒頭のダンスシーン。舞台はなんとクルマが渋滞した高速道路上です。クルマを書割りにしたダンスが踊られます。ダンサーにとってクルマは跳び箱のようになる。まさにアメリカ、アメリカという国の映像化です。
つぎはグリフィス天文台。ジェームス・ディーンの『理由なき反抗(Rebel Without a Cause)』(1955)で使われたあの天文台です。プラネタリウムの星の中で踊るふたり、私たちの夢が映像になりました。
そしてダンスシーンでのカメラワーク。クレーンを使い、長回しワンカットで撮影されています。
さらにエンィングでは8ミリカメラのような、ホームビデオ映像。デミアンは映画が好きなんです。
この映画はアカデミー監督賞に選ばれました。デミアン・チャゼル32歳。米映画の未来は君のものだ。
きみはソフィア・コッポラにどこで勝ちどこで負けているだろうか。『ザ・ビガイルド』を観た後で、また会おう。