コンテンツ・ビジネス塾「ラスト、コーション」(2008-06) 2/12 塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、映画の魅力
映画の魅力って何でしょう。映画を発明したルミュエール兄弟の人類初の映像が教えてくれます。
史上初の映画は汽車を撮りました。まるでみんなをひき殺してしまうかのようなアップで撮り、それをホームに突入させてきたのです。観客は驚いて椅子から立ち上がり、映画会場から逃げようとしました。映画は大成功でした。見られないものを見せてくれる、見ちゃいけないものを見せてくれる、これが映画の魅力です。見ることができない他人のセックスをのぞき見るのも、間違いなく映画の魅力のひとつです。
「禁断の、そして極限の愛の場面・・・」のキャッチコピーがつけられた、話題の映画「ラスト、コーション 色|戒」が上映される東京・渋谷の映画館の前には、中年男女の長蛇の列ができました。
2、「ラスト、コーション 色|戒」
2時間38分の長い映画。劇場の前で、観客が出てくるのをみていました。泣いているのか、笑っているのか、興奮しているのか、満足しているのか。・・・みんな無表情でした。ちょっと疲れているようにも見えました。
「ラスト、コーション」の禁断のシーンは、掛け値なしにすごい。禁断で、極限です。数ある映画のセックスシーンのなかでもランキングに入ります。しかし、この映画の問題点は、下半身だけに神経を集中することを許してくれないところにあります。もっと別の映画の魅力にあふれているからです。
映画の魅力の問題に立ち返ります。映画のもうひとつの魅力に、大スクリーンで美男美女を独占できることがあります。「ラスト、コーション」では、女優のタン・ウェイです。1万人のオーディションから選ばれて映画初出演。清楚な女子学生、妖艶な貿易商の妻、そして官能の愛人。彼女は見事に変身していきます。「演じ分けた」、とよく評論されますが、そんな言い方はイヤです。すべてが彼女の本質です。そして彼女のファッションがすばらしい。チャイナドレスを着たパリジェンヌです。映画は、このかわいいタン・ウェイを独占させてくれるのです。
もうひとつ映画の魅力があります。未知の映像体験です。「ラスト、コーション」は、この点でも優れています。1940年代の上海が再現されていることです。日本軍兵士も登場してきます。息をのむほど美しい映像が連続します。驚きは、全編を通してムダなカット、意味不明のカットが見当たらないことです。独特な映画の時間が静かに流れて行きます。
「ラスト、コーション」は、セックスオーケー、おねーちゃんオーケー、芸術オーケー、映画の魅力を満載した映画です。脳科学的にいうと、新皮質、旧皮質、古皮質、全「脳」感動映画ということになります。だから観客は、映画館を出てくるときに、疲れきった表情で出てくるのです。
3、アン・リー監督(李安 ANG LEE)
台湾生まれ、台湾の学校で学び、兵役後に、米国でイリノイ大学演劇学科と、ニューヨーク大学大学院映画学科を卒業しています。「ラスト、コーション」は、ヴェネツィア国際映画祭グランプリ(金獅子賞)、前作の「Brokeback Mountain」(2005)もヴェネツィア国際映画祭グランプリ、アカデミー賞監督賞、脚色賞、音楽賞を獲得しています。
ブロウクバックマウンテンは、アメリカの若者の同性愛の映画です。男性同士のセックス、男性同士の狂おしいほどのキスシーンがあります。そして60~70年代のカウボーイファッションが見れるスタイリッシュな映画です。さらにワイオミングの圧倒的な自然の風景を描いた映像的な映画です。ふたつの作品とも、物語は特別に変わっていません。要約してしまえば、ブロウクバックマウンテンは、ジャック・ツイストというひとりの男の人生、ラスト、コーションは、ワン・チアチーというひとりの女性の短い一生を描いたものです。それをセックスと、かっこよさと、ビジュアライゼーションで、縦横無尽に表現してみせるのです。
カラックス(仏)、北野武(日)、ズピルバーグ(米)、そしてアン・リー(台)も、映画の魅力を知りつくした、世界最強の映画監督のひとりです。