MSとヤフーの結婚に孫氏はイエスかノーか。

コンテンツ・ビジネス塾「デジタル文明」(2008-07) 2/21 塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、MSのヤフー買収提案
米マイクルソフト(MS)は2/1に、米ヤフーに買収提案をしました。買収額は446億ドル(約4兆7千500億円)。MSは市場価格に62%も上乗せしました。この価格は破格です。しかし、10日後にヤフーは、MSに買収提案拒否の通知をしました。理由は、価格が不当に低い・・・。そして現在、買収を巡る攻防戦は、決定打がなく神経戦に入ってきたと報道されています(日経2/21)。
なぜMSはヤフーに買収提案をしたのか。
まずインターネット事業でグーグルに独走されていることがあります。07.12の米検索市場でのグーグルのシャアは、58.4%、ヤフー22.9%、MS9.8%。勝負になっていないばかりか、その差は開くばかりです。しかもグーグルの売上の99%は検索サービスと連動するネット広告事業。グーグルが売上と純利益で過去最高を記録しているのに、MSのネット部門は赤字が倍増、ヤフーは8回連続4半期で減益となっています(日経2/2)。勝負どころか話にもなっていません。
第2にMSが独走してきたソフトビジネスにかげりが見えてきたことです。2/21にMSはパソコン用基本ソフト(OS)など主要製品の技術情報を原則として無償公開すると発表しました。きっかけは昨年9月の欧州司法裁判所からの独占禁止法違反の判決です。問題にされたのは応用ソフトの抱き合わせ販売と技術情報の開示不足です。戦略転換の背景にはリナックスのようなオープソフト型のソフトが広まってきていることがあります(日経2/24)。
このままではマイクロソフト帝国は崩壊していくことになるのです。
2、孫正義
MSの創業は1975年。ソフトバンク孫正義氏とMSのビルゲイツ氏は、80年代からの古い付き合い、孫氏はゲイツ氏をあこがれていました。対するヤフーの創業は1995年。CEOのジェリー・ヤン氏(39)は、台湾生まれ、グーグルの創始者と同じスタンフォード大学出身です。ソフトバンクは米ヤフーと共同で日本のヤフーを設立しました(ソフトバンク41%、米ヤフー33.4%出資)。MSともヤフーとも近い孫氏が、今回の買収劇のキーパーソンとして浮上してきたのです。
孫氏の狙いは、「ネット産業では中国アジアを制するものが世界を制し、ケータイを制するものがネットを制する」(日経2/8)、つまり中国とケータイです。
あと2つ孫氏が考えなくてはならないことがあります。まずNTTドコモKDDI(au)がグーグルとの提携を発表していることです。iモードにはグーグルの検索窓が置かれ、動画共有サイト「ユーチューブ」も導入されます。もうひとつは、米アップルの「iフォン」です。ソフトバンクとドコモの争奪戦はまだ決着がついていません。以上を考えて、ヤフーがMSと組むことが、損か得か。マイクロソフト帝国に未来はあるのか。悩みは深い、と言わざるを得ません。
3、デジタル文明
買収が成立するかどうか。興味津々ですが、株主ではない私たちには、あまり関係のない話です。そこで買収劇の先にあるネット社会とデジタル文明がどうなっていくのかを考えてみます。
ケータイで音楽も動画も楽しめるようになったのは、「情報のデジタル化」がされているからです。
この情報のデジタル化が、大きな社会変動を起こしています(日経1/25~2/5 坂村健東京大学教授)。第1にデジタル化は、文字の発明、印刷技術と産業革命による機械化に次ぐ、人類が経験する3つ目の変化です。第2にデジタル化は、現代社会の形式、手順、規則、法律、国家を物理的制約から、解き放ちます。第3にデジタル化は、物質、情報、人間の関与の割合を変化させています。価値における情報と物質の分離を起こしています。しかし人間は物質と情報をまったく分離できない特異な存在として残っています。ここがフラット化と格差拡大の矛盾したひずみの原因です。
「脳インターフェイス」「人工知能」そして人格をデジタル化した「精神のダウンロード」。世界はひとつの巨大なプログラムに還元される。坂村教授のデジタル化の未来は悪夢でしかありませんが、ともかく世界は変わります。資本主義の時代は終わります。資本が国家を超越するグローバル資本主義に変容しています(水野和夫 三菱UFJ証券チーフエコノミスト)。