PANASONICへの疑問。

コンテンツ・ビジネス塾「パナソニック」(2008-13) 3/31塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、消える松下
創業90周年を迎える松下電器産業が、10/1付で「パナソニック」に社名変更し、商品・企業ブランドを統一します(日経1/11)。
松下電器は、松下、ナショナル、パナソニックの3つの名前を持っていました。社名の松下は、1918年(大正7年)に創業者の松下幸之助が設立した、松下電気器具製作所に由来するものです。
つぎにナショナルは、1927年(昭和2年)に松下幸之助が角型ランプを発明し、国民の必需品になるようにとの思いでつけた「ナショナルランプ」の商標に始まるものです。
そしてパナソニックは1955年(昭和30年)にスピーカーを輸出しようとした米国で、ナショナルが商標登録されていたことから作られたブランドです。PAN (ひろく)とSONIC(音)からなる造語で、松下製品が生み出す音が世界に届いて欲しいという願いを込めたものです。
松下は海外で、マチュシタ、マツヒタと発音され、外国人には発音しにくい名前でした。ナショナルは、白物家電(冷蔵庫・洗濯機)や住宅設備機器に使われていた、国内限定のブランドでした。
偉大な創業者、松下の名前を消すのは忍びないが、グローバル企業として成長するために、パナソニックを選択したのです(「『松下幸之助』の名を超えて」大坪文雄松下電器産業社長 文芸春秋 2008.4)。
2、グローバル企業
中国でのパナソニックは、独シーメンスに次ぐ高級ブランドとして定着しています。もちろん北京五輪の公式スポンサー。いま冷蔵庫と洗濯機でヒットを飛ばしています。狭い中国の台所にフィットする横幅55センチの210~230リットルのスリムな冷蔵庫の企画が成功したのです。洗濯機は除菌機能付きのななめ式ドラム洗濯乾燥機です。鳥インフルエンザで菌やウイルスに敏感な中国人に受け入れられたのです。
ロシアでのパナソニックは、ソニー並みの認知度があります。しかし韓国のサムソンにはまったくかないません。話題は、ロシアで有名な知性派映画監督北野武を薄型テレビのイメージキャラクターに起用していることです。モスクワ市内には全長400mの巨大看板を出しました。
欧州でのパナソニックも意欲的です。フランスではグッチの兄弟会社である大手家電量販店フナックでパナソニックの「ルミックス」が成功を収めています。ルミックスは販売台数でキャノンと首位を争っています。さらに「欧州白モノ上陸プロジェクト」が進められています。冷蔵庫や洗濯機でシーメンスをはじめとする欧州メーカーに挑戦状を叩き付けるのです(東洋経済2/2)。トータル的には、Bricsの富裕層が戦略的なターゲットになると大坪社長は言明しています。
3、ブランド戦略
ライバルであるソニー(連結売上8.3兆円)、サムソン(同7.1兆円)とパナソニック(9.1兆円)を比べてみます。パナソニックは、売上でトップです。しかし海外の売上比率は、ソニー74%、サムソン82%、パナソニック49%。海外で弱いのです。さらに時価総額では、ソニー6.1兆円、サムソン8.9兆円、パナソニック5.3兆円。株式市場で評価されていないのです(日経1/11)。以上の結果は、インターブランド社(米調査会社)のグローバル・ブランドランキングにはっきりと現れています。ソニー25位、サムソン21位、そしてパナソニックは、なんと78位です(前出東洋経済)。
ブランドとは、個性、ニュース、そして夢です。大坪社長はモノづくりイノベーションとして「イタコナボード」で商品づくりをすすめています。イタは鉄板、コナは粉末。つまり原材料から原価を追求するのです。これはパナソニックのモノづくりの個性です。しかしニュースや夢はあまり聞こえてきません。パナソニック・ブランドでグローバル・エクセレンスを目指す、これは夢ではありません。身内の事情です。パナソニックは子どもたちや私たちにどんな幸せをもたらしてくれるのでしょか。モノからコンテンツへ社会は動いています。「モノづくりは人づくりから」、「溺れなければ、泳ぎは覚えない」(松下幸之助)。どんな人材を育ててくれるのでしょうか。どんなコンテンツを作ってくれるのでしょうか。それを聞きたいのです。