サンローランのあのエレガンスに戻りませんか。

コンテンツ・ビジネス塾「イブ・サンローラン」(2008-24) 6/17塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、クロッキーの天才
イブ・サンローランが、6/1(日本時間6/2朝)パリの自宅で亡くなりました(71才)。サンローランは、「モードの帝王」と呼ばれた、フランンスのファッションデザイナーです。イブ・サンローラン・ブランドは健在ですが、かれ自身はもう仕事をしていませんでした。
サンローランは早熟の天才でした。17才で国際羊毛事務局のデザインコンクールで1位になります。サンローランのクロッキー(ファッションイラスト)を見た雑誌「ヴォーグ」の編集長は驚きます。17才の少年の作品とは思えないエレガンスがある。そしてサンローランは19才にして、当時のパリを代表するクリスチャン・ディオールのデザイナーとして雇われます。運命のいたずらが起こります。翌々年ディオールが急死してしまうのです。サンローランは、ディオール・ブランドの後継者に指名されます。わずか21才にして「帝王」の座に就くことになるのです。現在につながるイブ・サンローラン・ブランドの立ち上げは、それから7年後の1961年のことです。
 2、昼顔(Belle de jour)
サンローランで有名な映画あります。カトリーヌ・ドヌーブ主演の昼顔(Belle de jour ルイス・ブニュエル監督 1967年)です。ドヌーブはサンローランの愛用者、サンローランにとってもドヌーブは理想のモデル、そこで映画のドヌーブの衣装をサンローランがデザインすることになったのです。
(映画のあらすじ)
1960年代フランス上流社会の物語。ハンサムな医師の貞淑な妻が、ある日幻想を見る。「不感症でなければ、君は完璧だ」と言われ、夫に両手を縛られ、木に吊るされ、裸にされ、鞭で打たれるのだった。性の話題に敏感になった妻は、パリ市内の高級売春クラブの存在を知り、そこで昼間だけ、「昼顔」という名の高級売春婦として働くようになる。
第1の客は、小太りの製菓会社の社長で、ハッピーだった。第2の客は、婦人科医。彼はコスプレが好きでしかもマゾだった。第3の客は、チョビヒゲをはやした東洋人だった。彼はファニーだった。
第4の客は、上品な貴族だった。お城のような豪邸、そこで「昼顔」は、死者として棺桶に入ることになる。貴族はネクロフィリア( necrophilia 死体性愛)に凝っていた。第5の客は、ヤクザの若者。暴力的だった。第6の客は、夫の友人だった。バレたのだ。「昼顔」は止める決意をする。しかし、うまくいかない。ヤクザの若者の一味に尾行され自宅が分かってしまい。夫がヤクザのピストルに撃たれてしまう。運良く一命はとりとめるが不具に。そして、貞淑な妻の人生がリスタートする・・・(終)。
市民ではなく貴族を、勤勉ではなく快楽を、貞淑ではなく背徳を描いた映画は、民主主義に反抗しています。サンローランは、赤のスーツでデカダンスを、黒のビニールを使ったコートでセクシーを、ベージュのワンピースでソフィストケイションを、シースルーの黒のガウンでエクスタシーを、白い襟の紺のドレスでフェアリーを、さまざまなエレガンスをデザインしています。ヘアスタイルもいいです。貞淑のときはアップ、快楽のときはほどき、下ろします。日本のベストセラー「女性の品格」なんてアホみたい。エレガンスのかけらもありません。マダムは夫に告白します。「あなたへの愛は快楽を超えている」。これこそが、マダムの品格(エレガンス)のお話だからです。
 3、あなたの知らないあなた
サンローランは、「モードの帝王」とも、「最後のクチュリエ(高級服のデザイナー)」とも言われます。プレタポルテ(高級既製服)ではなく、伝統的なオートクチュール(高級注文服)の技術を持っていたからです。技術ではなく才能です。サンローランは、テアトロ(演劇)やバレーの1点限りの衣装を、さまざまなアーティストと作り上げています。すてきなクロッキーがそのすべてを物語ります。
「彼は、あなたが自分では持っていると知らずにいるものを見ている・・・(中略)、彼はあなたの新しい美しさを引き出す」(マグリット・デュラス 「イブ・サンローラン展」セゾン美術館1990)。あなたの知らないあなたと、私の知らない私との出会い。新しいことを作るなんて、「天才」サンローランにしてみれば、実に簡単だったに違いありません。アルマーニじゃない、カジュアル・ブランドでもない、ましてゴスやパンクでもない。時代は、知らないエレガンスを作ってくれる「帝王」を、待っています。