自殺したいと言われたら、必ず話し相手になってあげてください。

コンテンツ・ビジネス塾「鬱(うつ)の時代」(2008-26) 7/1塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、自殺大国
昨年(平成19年度)の自殺者が発表されました。3万3093人。ついに10年連続、3万人を突破しました。自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)は、米国の2倍以上で世界でもトップクラス、日本はリトアニアベラルーシ、ロシアに続く、世界第9位の自殺大国です(韓国10位、中国本土25位)。
自殺者で目立つのが60才以上の高齢者と働き盛りの30才代です。原因と動機は、健康が48%、経済生活が24%、家庭が12%となっています。日本政府は、自殺対策基本法(2006.6)を定めました。そこでクローズアップされたのが、心の健康、鬱(うつ)な気分、うつ病です。
2、うつ自殺
1)あなたの会社ではリストラが行われていませんか 2)人間関係がギスギスしていませんか 3)仕事をひとりで抱え込んでいませんか 4)気分が落ち込んでいませんか 5)疲れやすくありませんか 6)
イライラしていませんか 7)集中できていますか 8)自責の念が強すぎませんか 9)食欲はどうですか、不眠症ではありませんか 10)自分は価値のない存在だと思うことはありませんか 
作家の五木寛之さんは、「鬱(うつ)の問題を、個人の人格的な危機や、短期的な社会現象として捉えるべきではない」、「20世紀後半から21世紀はじめにかけて、社会の流れが、『躁』から『鬱』へと転じてきたという、長いスパンで」捉えるべきだいいます。つまり「鬱の時代」がやってきたのです。
そして、鬱を礼賛します。エネルギーと生命力がありながら、出口を塞がれている状態。鬱を感じるとは、その人間が繊細でやさしい人間であることの証拠だといいます。無気力な人は鬱にならない。鬱とは、国を憂(うれ)い、人を愁(うれ)える、ことなのです(「鬱の力」五木寛之 香山リカ 幻冬社)。
精神科医香山リカさんは、鬱の時代を精神科の現場から教えてくれます。自分から「私、うつ病なんです」と病院に来る患者さん、安易にうつ病と名づけてしまう風潮、鬱という言葉が広がりすぎて独り歩きをしていると指摘します。むかしは患者さんに、「うつ病」と診断書に書かないでくれと頼まれたのに、このさま変わりなのです。1980年代のうつ病は人口の1~2%、それがいまでは15%に。うつ病の概念が拡張されているとはいえ、鬱の時代は確実にやってきているのです。人気のある精神科のクリニックは、いま申し込んでも2年待ち、「なんだかおかしい、自分はこのままでいいのだろうか」、不安をかかえている人はそれだけ多いのです。
問題は、「鬱な気分」と「うつ病」を分けて考えることです。五木さんのお話は「鬱な気分」です。自分の内面と向きあい、社会に発信することでしか解決しません。香山さんの問題は「うつ病」です。薬を含めた治療が必要になります。
3、いのちの電話
「百寺巡礼」の著書のある五木さんへの講演の依頼先が変わってきています。大学の文学部、カルチャーセンターから、銀行・金融関係、さらにはIT・情報関係の企業になってきているのです。社員の心が壊れてきている。時代の先に立つ会社は社員の心の危機を感じています。メンタル・ヘルス・トレーニングでは効き目がないのです。宗教に手がかりを求めているのです。会社側の事情としては、うつ病が労災に認定されるようになってきていることもあります。
ところであなたは、「もう死んじゃいたい」と、友だちに相談されたらどうしますか。香山さんは、「好きにすれば」と突き放してはいけないと言います。「自殺する」と言う人は自殺しない、という俗説は間違えています。香山さんは衝撃的な事実を付け加えます。ほとんどのケースで、遺された家族は崩壊しているのです。五木さんも言います。「お前の父ちゃん首吊って死んだ」。子どもはみんなにはやされて、転校せざるをえなくなる。「自殺したい」と言われたら、まず相談に乗ってあげること、そして「いのちの電話」を教えてあげてください(「日本いのちの電話連盟」 http://www.find-j.jp )。ある新聞記者は、いのちの電話で救われたと告白しました(「読売ウィークリー」2008.7.13)。 
日本文学を代表する、夏目漱石芥川龍之介宮沢賢治は、みな「うつの作家」で、アーティストとか小説家とかジャーナリストというのは、社会から逸脱している存在(五木氏)。とすると、いまもてはやされているクリエーターの仕事って、うつの仕事に、近くありませんか。そこのあなた、ご用心。