石油を使うのを止めよう。

 コンテンツ・ビジネス塾「自動車の終焉」(2008-47) 12/23塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、ホンダ、F1撤退
ホンダは12/5、2008年シーズンを最後にフォーミュラー・ワン(F1)から撤退することを発表しました。理由は、年間500億円超の巨費が負担である、自動車産業は新しい時代になる、からです。
1964年、本田宗一郎の決断で、ホンダはF1に参戦しました。しかしF1の世界は厳しく、第1期(64~68)は、35戦中わずか2勝という惨憺たる結果。しかし第2期(83~92)は、151戦69勝という素晴らしい戦績。とくにセナとプロストのふたりの天才ドライバーを擁した88年は16戦中15勝、チャンピオン・ホンダの名は世界にとどろきました。そして第3期(00~08)は、154戦1勝。戦績をあげられないまま、今回の撤退になりました。
「ホンダDNA」という言葉があります。市販車にも、レースで鍛えられた技術が生きている、という意味で使われます。ホンダのクルマには、たんに高性能であるばかりでなく、勝利の女神も微笑むロマンがあるのです。それがホンダDNAです。レースでホンダのクルマは進歩してきました。
しかし、これは何もホンダに限った話ではありません。F1を頂点にした自動車レースは未来に挑戦するという意味で、モーター・ショーともに、クルマの発展になくてはならないものでした。
しかし、現状のF1はどうでしょう。まず爆音を立ててガソリンをふんだんに使うF1は未来カーの実験になり得るのでしょうか。さらに疑問があります。同じエンジンをすべてのチームで利用する提案がなされているそうです。レースのためのレース。F1は、遊園地のショーになろうとしているのです。
2、ビッグスリーの苦悩
GM、フォード、クライスラー。米自動車3社(ビッグスリー)の経営がピンチを迎えています。ブッシュ米大統領は12/19に、当面の経営破綻を避けるために、GM(ゼネラル・モーターズ)とクライスラーに174億ドル(約1.5兆円)の公的融資を実施する表明しました(日経 12/22)。
1886年に自動車を発明したのは、ドイツ人のゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツですが、現在のクルマにつながる歴史を作ったのは、アメリカ人のヘンリー・フォードです。100年前の1908年にフォードはT型フォードを発売します。大量生産方式で作られるT型はヒット作になり、その後20年近く1500万台も生産されます。これが米国自動車産業の始まりです。
なぜビッグスリーはだめになったのか。1)自動車が売れなくなったからです。2008年の新車売上げ予想は、GM41%減、フォード29%減、クライスラー47%減(米調査会社オートデータ。東京12/3夕刊)。この数字はさらに悪くなっています。2)ビッグスリーは独自にクルマを開発していません。小型化、省燃費の技術で立ち後れています。3)労使ともに浪費家です。経営者は社用ジェットで移動していました。全米自動車組合(UAW)は、エリート労働者の集まりです。たとえばジョブズ・バンク。これはレイオフ(一時解雇)されても賃金の85%が支払われるというものです。
3、自動車産業の終焉
クルマは100年前から基本的に進歩していません。「テレビで言うと、ずっとブラウン管。プラズマや液晶はまだ出ていない」(自動車ジャーナリスト・清水和夫 週刊東洋経済「自動車全滅」P.75)。
なぜクルマは進歩できなかったのでしょうか。それはこれまでの100年間輸送が、大石油会社と大自動車会社に独占されてきたからです(「自動車産業の終焉」カーソン、ヴェイティーズワラン、黒輪篤嗣訳 二見書房 P.280)。独占が進歩を阻止してきました。
「誰が電気自動車を殺したのか?」という映画があります。映画は殺害の容疑者を、石油会社、自動車会社、規制当局、消費者・・・取り調べていく構成です。「石油は悪魔の排泄物だ。社会に数々の不幸をもたらす。荒廃、不正、浪費、公共事業の崩壊。それから借金」(前掲書P.154)。アルカイダのオサマ・ビンラディンは、アメリカ人は私たちから富と石油をはした金で奪った、と抗議しています。石油の埋蔵量や排出する二酸化炭素が問題ではないのです。悪魔の排泄物=石油を使うべきではないのです。
F1撤退は正しい。ビッグスリー衰退も当然のこと。私たちは新しい社会の交通ネットワークを構想しなければならないのです。そしてそれは手の届くところに来ています。ホンダに期待します。