日本映画が沈没していきます。

コンテンツ・ビジネス塾「日本映画の危機」(2009-33) 9/15 塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、日本映画の現在
映画ファンでもちょっと注意していないと、日本の映画界の変化を見逃してしまいます。大きな変化が三つあります。
第一は、興行収入で邦画が洋画を上回っていることです。洋画を中心に扱ってきた映画雑誌の廃刊に象徴されるように、20年以上続いた洋画天国は06年に崩壊しています。
第二は、映画が映画会社ではなく、テレビ局によって制作されていることです。かつての映画会社の東宝、松竹、東映は、製作もしますが、配給会社の役割が中心になってきていいます。
第三は、製作される作品数、上映されるスクリーン数が、ともにこの10年で1.5倍に増えていることです。作品数535(98年)→806(08年)。スクリーン数1993(98年)→3259(08年)。しかし売上げは、約1900億円で10年前もいまも変わりません。
映画の数は増えているのに、売上げが変わらない。つまり映画はもうからなくなってきています。
今年売れている映画は、1)「ルーキーズ」(TBS)84.2億円、2)「ごくせん THE MOVIE」(日本テレビ)33.5億円、3)「アマルフィ 女神の報酬」(フジテレビ)33億円となっています(8月末時点)。
ルーキーズの興行収入は、洋画の大作である「レッドクリフPart˘」(55億円)や「ハリーポッターと謎のプリンス」(75.7億円)をも上回っています。
過去を振り返っても、「花より男子ファイナル」(08年)、「HERO」(07年)、そして173億円を売った「踊る大走査線 THE MOVIE2」(03年)と、いずれもテレビ局製作の映画が話題を呼んでいます。
2、テレビ局の映画製作
議論を呼んでいるのは、テレビ局の制作方法が、いままでの映画と違うことです。
1)作家性より、お客さんの見たい映画を作る。
2)視聴率獲得競争のように、スターを出し、海外ロケをし、わかりやすく作る。
3)顔のアップを多用し、大げさな漫画っぽい演技をし、人物の感情を過剰なまでに説明する。
その結果、
1)映画の文法はガタガタになっている(山根貞夫 映画評論家)。
2)俳優は優遇されるが、映画をささえる脚本家とスタッフは、軽視されている。
3)テレビを使った大宣伝だけで観客を動員している。
といった、問題点が指摘されています(「邦画のセオリーを変える。テレビ局の映画作り」日経 9/5)。
では、これまでの日本映画が理想的に作られてきたかというと、そうとも言えません。
日本映画にプロデューサーは不在でした。作品の制作コンセプトは不明確で、予算と制作スケジュールは管理されていません。お金は無限にふくらみ、完成は平気で遅れます。これは、小津安二郎黒澤明などの天才に、日本映画がよりかかってきた負の遺産です。どんな観客に向けて何を、いくらで、いつまでに作るか。コンンセプトを明確にしなければ、国際化の時代の映画製作は不可能です。日本映画は国境を越えますが、製作自体はいまも鎖国状態で行われています。
3、映画の未来
今年アカデミー・外国語映画賞に輝いた「おくりびと」(08年)の制作秘話があります。
映画の企画をあたためていたのは、主演の本木雅弘さんでした。企画は最初、東宝に持ち込まれました。しかし東宝は映画化を断りました。なぜか。テレビ局のコードに触れるからです。1)セックスがないか。2)暴力シーンはどうか。3)政治的な問題を扱っていないか。これが放送コードです。やむなく本木さんのグループは松竹に製作を依頼することで、今回の栄冠を獲得しています。
危機が、クリエーターを襲っています。映画の名作は、セックス、暴力、政治を描いてきました。テレビのホームドラマは、だれもが飲める蒸留水です。放送コードはクリエーターの想像力を制限します。映画は、酒と泥水と、そして「愛液」すら飲んできました。
もうひとつの危機は、国際化です。日本映画は外国で商売になっていません。CMクリエーターが経験しているような、英語で作ったコンセプトと、英語が通用するロケ現場が必要です。