「カムイ」とは何者でしょうか。

コンテンツ・ビジネス塾「忍者」(2009-34) 9/29 塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、アクションのヒーロー
忍者とはなにか。鎌倉時代から江戸時代に領主や幕府に雇われて活躍した、テロリスト、暗殺者、スパイです。伊賀流三重県)、甲賀流滋賀県)が有名です。最大のヒーロー「猿飛佐助」は、大正時代の「立川文庫」が生んだ架空の忍者です。忍者ハットリくん服部半蔵は、徳川家康を助けた実在の忍者です。東京の地名「半蔵門」は、その活躍を讃えたものです。
忍術には陰術と陽術があります。陰術とは、適地に忍び込んで行う、破壊・殺人のテロ活動です。陽術とは、白昼堂々と敵をあざむき行う、諜報・謀略のスパイ活動です。テロのときは頭巾をかぶった忍び装束、スパイのときには、商人、虚無僧、山伏、病人などに変装します。
武器は、手裏剣、仕込み杖、忍び刀、吹き矢、鎖がま、飛びはしご。使うワザは、堀や川に隠れる「水遁の術(すいとん)」、火を放ち煙に隠れて逃げる「火遁の術」、観音隠れ・鵜隠れ・狸隠れの「隠形術(おんぎょうじゅつ)」、羽織を使い高いところから飛び降り、猫のように着地する「飛術」、一日五十里(200km)走る「走法」、抜き足・差し足・忍び足の「歩法」などがありました。
忍者は、エスパー(超能力者)でもアンドロイド(人造人間)でもロボットでもありません。厳しいトレーニングで忍術を身につけた訓練の人です。しかし、忍者は私たちのヒーローでした。「鬼ごっこ」、「缶けり」で遊んできた私たちは、忍者のまねをし、忍者にあこがれてきました。
2、カムイ外伝
忍者の出身階級は? 忍者の一生は? 17世紀の江戸時代の忍者の謎にに迫った劇画があります。白土三平(しらとさんぺい)の『カムイ伝』と『カムイ外伝(がいでん)』です(カムイはアイヌ語で神)。
白土三平は、60~70年代に、社会変革を主張する急進的な学生のヒーローになりました。忍者の出身階級は、士農工商のさらに下の階級、「非人」である。徳川幕府の権力者たちは、非人たちを文字通り人間扱いしなかった。そしてカムイが時の権力に反逆したように、われわれも現代社会の権力者に反抗しなければならない。学生達は白土三平に熱狂しました。
そして現代、カムイは劇画を飛び出し、江戸社会の研究テーマになりました。それは『カムイ伝講義』(田中優子 小学館)という堂々たる研究書にまとめられました。
1)『カムイ伝』では、カムイを「非人」として表現しているが、正確には「穢多(えた)」である。
2)穢多は、牛馬の死体処理、皮革処理、革細工の仕事をしていた。
3)非人は、物乞い、大道芸、犯罪者の引き回し、処刑場での雑役が、仕事だった。
4)幕末の人口約3200万人。武士6~7%、農民80~85%、工商・町人5~6%、神官・僧侶1.5%。そして穢多・非人は、1.6%、約50万人もいた。
5)『カムイ伝』は武士道を礼賛していない。江戸時代の階級と格差を見つめている。カムイには最低辺の人間が持つ批判のエネルギーそのものがある。『カムイ伝』は「いま」のためにある。
忍者は、アクションのヒーローではなく、社会革命のシンボルになりました。
3、松山ケンイチ
映画『カムイ外伝』(崔洋一監督)が公開されました。「抜忍(ぬけにん)」と「追忍(ついにん)」の物語です。「抜忍」とは権力に逆らい忍者の道を捨てた者、「抜忍」とはそれを追う権力の手先です。カムイ(松山ケンイチ)もスガル(小雪)も抜忍、しかし二人は同郷の出身でありながら疑心暗鬼、無益な対立をします。追忍は、忍者の総元締の大頭(おおがしら=イーキン・チェン)です。
映画は二つの楽しみ方ができます。まず、忍者のアクション映画としてです。運動神経抜群の松山ケンイチイーキン・チェンのアクションが見物です。そして、階級と格差の社会革命の映画としてです。永遠に逃げ続けるカムイは、外泊を続けるフリーターやネット難民の私たちです。
アクションの甘い映画になるか、社会革命の苦い映画になるか。それとも、一粒で二度味わえる映画になるか。それは現在のあなたの社会的なポジションによります。いずれにせよ私たちは再び、忍者とは何かの、問いの前に立たされることになります。