コンテンツ・ビジネス塾「ニューヨーク」(2010-3) 1/19塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、ニューヨークの地下鉄。
ニューヨークに行かなければ、世界の今はわからない。これまでずっと信じていました。ところが今回ニューヨークを訪れ、その気持ちがすっかり変わってしまいました。ニューヨークが世界の中心であることに異議を申し立てます。
何度か訪れていても今まで使ったことがなかったニューヨークの地下鉄に乗って、心が冷えきってしまったからです。まず地下鉄は監獄です。人気のない自販機で切符を買います。改札機を通ってホームに向かいます。改札口の内と外は太いスチールのパイプで地上から天井まで仕切られています。監獄どころか動物園です。ホームに行ってさらに驚きます。寒い。−5℃〜−6℃の寒さから逃れるために地下に入ったはずなのに、ホームはさらに寒い感じがするのです。しかも暗い。広告も少なく明かりも少ない。決定的なのは、次の電車がいつくるのか、どこに行くのか、案内の電子表示がないことです。
2、ニューヨークの終わりの始まり。
1)スマート・フォン
現在のニューヨーク・トレンドの第1は、スマートフォンです。夜中の10時、ソーホー(青山、渋谷の雰囲気)を歩きながら、あるクラブの名前を二人連れの女性に尋ねました。ひとりは即座にiPhoneを取り出し検索してくれました。そしてその店がすでに閉店していることを教えてくれました。
セントラルパークの入り口にある、アップルのビルは前衛的です。地上には大きなリンゴ・マークの電子ディスプレイがあるだけ、地下にお店が展開されていました。そこは情報のターミナルでもあります。情報を資本家や知識人が独占できなくなりました。特権階級は存在できなりました。
2)アバクロンビー&フィッチ
第2のニューヨーク・トレンドは、カジュアル・ファッションです。5番街(銀座の雰囲気)の主役は、ティファニーやシャネルから、GAP、H&M、ザラ、アバクロに変わりました。とりわけ元気だったのがアバクロンビー&フィッチです。地下1階から地上3階までの売り場には、音楽が鳴り響き、スタイリッシュな女性が踊りながらハロー!、と出迎えてくれました。アトリウムの壁には、ゲイを思わせる裸のハンサムたちがロープで上っていく姿が描かれていました。強い香水の香りがする店内はライバルのどこのお店よりにぎわっていました。ヘンなことに気がつきます。店員にはアフリカ系の女性がいるのに、写真、壁画には黒人が全く登場しません。ヴィジュアルは白人王国です。
3)MoMA(ニューヨーク現代美術館)
ニューヨーク・トレンドの第3は、MoMAです。特集は『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』のアメリカ版オタク映画監督のティム・バートンでした。土曜日だったせいもあるでしょうが、コートを預けるだけで30分、あまりもの混雑に参りました。しかし、モマは終わっていました。アンディ・ウォーホル、ジャスパー・ジョーンズ、ロバート・ラウシェンバーグの作品を見ても胸がときめかなくなってしまったのです。なぜか。MoMAとは、Museum of Modern Art。ところが展示されている作品が、「現代のアート」ではなく、「昨日のアート」になってしまっているからです。
3、ニューヨークから上海へ。
アメリカのテレビで見るオバマ大統領は日本とは違って見えます。オバマは、アメリカの希望の星ではなく、没落の象徴です。ニューヨーク・トレンドとオバマの顔をダブらせると、すべてが否定的に見えてきます。スマートフォンは他人依存の怠け者の時代の到来、アバクロは白人支配への郷愁、モマは大量消費とマスコミ時代の思い出美術館です。
09年にアメリカは自動車の生産台数で世界一の座を中国に奪われました。そして地下鉄の総延長でも、10年5月の万博で上海が世界一になります。上海の地下鉄は明るく暖かく快適です。
ニューヨークのナイトライフは、白ワインとオイスターとジャズで始まりました。上海のナイトライフは、青島ビールと上海蟹と中国語の騒々しいおしゃべりだけでした。中国人のおしゃべりが甘い音楽に変わるとき、ニューヨークが終わり、世界の中心は上海になります。