グーグルが正しいのでしょうか?

コンテンツ・ビジネス塾「ネットの検閲」(2010-4) 1/27塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、中国の言論統制
躍進する中国から3つの驚異のニュースと、2つの不安なニュースが届きました。
1)自動車と地下鉄で世界一の中国が、GDP(国内総生産)でも日本を追い抜き、世界第2位になります。09年のGDP成長率は8.7%、対して日本の成長率は−5.2%、全くお話になりません。さらに2030年には世界一になると予想されています(日経1/22)。
2)フランス旅行の買い物で、中国人が日本とロシアを抜いてトップに躍り出ました(日経1/22)。一人当たり1,071ユーロ(約14万円)。このニュースを報じたNHK番組は、若い女性のインタヴューを紹介しました。「買い物の予算は1万ユーロ(130万円)」!!。
3)09年の貿易統計速報(財務省)によると、中国が米国を追い抜いて日本の最大の輸出国になりました(東京夕1/27)。
以上はまあ、ハッピーですが、つぎは言論統制の不安なニュースです。
4)米国映画「アバター」の上映が春節旧正月)を前に打ち切られました。国産映画を支援するためにですが、少数民族問題の内容を当局が検閲の対象にした、と言われています(日経1/23)。
5)そしてつぎが、今日のテーマ「中国政府対グーグル」、ネットの検閲の問題です。
2、グーグル。
問題は1/12に、インターネット検索最大手の米グーグルが、中国当局が検閲を止めないなら、中国から撤退すると言い出したことに始まります。何が起きたのか。中国人権活動家のメール情報を狙ったサイバー攻撃(情報収集とサイトの破壊)です。攻撃はほかにも金融、メディアの20社以上が対象になりました。米政府は事態を重視し、クリントン国務長官が中国批判の演説を行いました。「世界人権宣言に違反し、基本的人権の侵害にあたる」(日経1/22)。
一方、中国共産党の機関紙人民日報は「インターネットの管理が国家の安全を保障する」、治安関係者は「ネットの管理は治安維持の生命線だ」と表明しました(日経1/16)。
1)グーグルは2006年から中国に進出していますが、検索シェアは3割と最大手百度バイドゥ)の6割、その差は縮まっていません。グーグルの中国事業を牽引してきたのは、MS出身の李開復(カイフー・リー)。ところが李氏は昨年9月に退社。グーグルの中国事業は見直しされていました。
2)百度の創業者・会長の李彦宏(ロビン・リー)は「政府が有害情報を除去してきたのは理解できる」、政府に味方しました。グーグルは音楽で完全に出遅れ、アマゾンもイーベイも不振。対して、簡易メールサービスの謄訊(テンセント)、企業間電子取引の阿里巴巴網絡(アリババ・ドット・コム)、インターネット検索の百度バイドゥ)、いずれも中国企業が好調です。
3)グーグルは撤退したいが本音(「未来に勝てるものは誰もいない」ダニエル・ライオンズ『ニューズ・ウイーク』1/27)。「邪悪にならない」の経営理念を大切に、検索サイトは閉鎖するが、全面撤退しない、落としどころをさがしているのではないか。(日経1/23)。
3、インターネットというメディア。
中国政府の検閲へ抗議したいのですが、事情は複雑です。メディアの本質から考え直してみます。
1)「インターネットの大きな特徴の一つは、国境がないことです」「みんなが公平に意見を言えて、その意見が流通する」(『インターネット』村井純 岩波新書 1995年)
2)「中央集権化された権力に軽蔑を示し、まさにそれが、リーダー不在のインターネットの世界」(『ウェブ時代5つの定理』梅田望夫 ビジネスアイ3/7 2008年)
3)「メディアは総力戦のための国民説得の道具」「ワイマール民主主義と大正デモクラシーから、ドイツと日本でファッシズムは生まれた」(『メディア社会』佐藤卓己 岩波新書 2006年)
いままでインターネットは理科系に偏りすぎていました。情報スーパーハイウェイでの「表現と自由」、「民主と統制」、「米国中心主義」の議論は未成熟のままでした。検索=検閲です。クリントン国務長官は人権を理由にテロリストのサイトを攻撃しないのでしょうか。いたずらに検閲反対を叫ぶことはできません。ネット社会の自由を考え直し、中国の動向を見守りたいと思います。