オシムは一流。なぜか中曽根の言葉に重なる。

コンテンツ・ビジネス塾「オシムと中曽根」(2010-18) 5/14塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、ワールドカップ(W杯)
W杯南アフリカ大会(6月11日開催)まであと1ヶ月を切りました。5/10に、日本サッカー協会は日本代表メンバー23名を発表しました。その日本チームに、病気のために日本代表の監督を辞任し岡田監督にバトンタッチをしなければならなかったイビチャ・オシムが、応援メッセージを送っています(「なぜ日本人指揮者は勝てないのか」『文芸春秋』2010年8月号)。ユーゴスラヴィア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)出身のオシムが発する言葉は、サッカーを超えています。優れた日本人論で、政治理論。そしてそれは日本の政治家中曽根康弘の言葉と重なってきます。ふたりの言葉に共通するのは、「不易と流行(ふえきとりゅうこう)」(伝統と革新)です。
たとえばオシムは、「ワールドカップで何を得て何を失うのか。選手はわかっていない」と、根本的な問題を私たちに投げかけます。そして答えます。「南アフリカで悪いプレーをしようものなら、日本のサッカー人気は低下し、彼らの後にサッカーに身を捧げようとするすべての人たちの、扉を閉ざしてしまうことになる。サッカーは彼らだけのものではない」
オシムの言葉を聞いて何を思い浮かべますか。「普天間問題で、何を得て何を失うのか。政治家はわかっていない」日本政府はアメリカ政府と約束したことを、政権が変わったことを理由に反古(ほご)にしました。しかも代替案を約束の期限を過ぎても提出できないでいます。何を失ったか。政権の信頼です。日本人の信頼です。失った信頼はなかなか取り戻せません(『保守の遺言』中曽根康弘 角川書店)。今の政治を見て育った若者たちは、平気で約束を破るようになります。
2、日本人とは何か
オシムは日本代表監督就任(2006年)にあたり、「サッカーの日本化」、日本人の特徴を生かしたサッカー、日本独自のスタイルで世界と勝負する、ことを宣言しました。
ブラジルに学ぶのでもない、ヨーロッパのマネをするのでもない。日本のスタイルを築く。日本人には俊敏さと知性がある。オシムは実際にジェフ市原(千葉)で実証して見せていました。J2降格の危機にさらされていたチームを優勝を争うように育て上げました。日本人の弱点もあります。ディシプリン(discipline=規律、統制)に欠けているのです。ディシプリンとは、適切な瞬間に判断し行動すること。自ら判断し、リスクを冒し、責任をとることです。おとりになって走りパスコースを作り、ディフェンダー(守備)を引き寄せスペースを作るのです。
政治の世界も同じです。日本のスタイル、「国家像」を明確にすべきだと中曽根は言います。
1)そもそも日本はどういう願いを込めて建国されたのか。2)どのような歴史があり、伝統を文化を育んできたのか。3)国際社会のなかでどんな貢献をするのか。「天皇」、「わび、さび」、「もののあわれ」。これが日本の伝統、文化、精神。そして日本人には進取の精神があります。保守政治家を自認する中曽根は、「保守せんがために改革する」と主張します。不易と流行(基本と応用)です。
3、リーダー
またオシムはリーダーの必要性を説きます。優れた性格とカリスマ性、人望を持ち、ピッチの上ですべてを見渡すことができる選手です。オシムは一つの意見として中村俊輔こそリーダーにふさわしいと見立てます。中曽根もまたリーダーの条件として、目測力(問題をゴールに到達させる力)、説得力(コミュニケーション力)、結合力(人と情報と金を結びつける力)、人間的魅力(人を動かす力)以上の4条件をあげます。
南アワールドカップの日本代表の岡田監督は、足を骨折し今季出場経験のない川口能活を代表に選びました。理由はリーダーシップがあるからです。
中曽根の総理時代はリーダーのお手本でした。小学生だった自分の娘がかつてアメリカに留学しアメリカ人の世話になった。その娘が今日通訳の役割を果たしている。ブッシュ副大統領の晩餐会で、中曽根はそうスピーチし自らの言葉を詰まらせ、米首脳たちの涙を誘いました。不易と流行(古いものと新しいもの)、そしてリーダーの人間的な魅力が、最後に説得力を持ちます。
W杯では不易と流行で、だれがヒーロー(英雄)となり、だれがヒール(悪役)になるのでしょうか。