コンテンツ・ビジネス塾「電子書籍」(2010-50) 12/31塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、電子書籍端末
シャープが「ガラパゴス」、ソニーが「リーダー」を、電子書籍端末としてそれぞれ2010年12月に発売しました。2010年は「国民読書年」でしたが、「電子書籍元年」にもなりました。
そんななか、12/13に東京信濃町・明治記念館で「どうなる?電子書籍・電子配信の行方」(NPO法人ブロードバンド・アソシエーション主催)と題するシンポジウムが開かれました。会場には400人ほどの熱心なビジネス・エリートが集まり、そして同時中継、さらに ネットでもたくさんの人が視聴する人気のイベントになりました。
「紙(本、新聞)ですか?電子ディスプレイ(パソコン、携帯端末)ですか?あなたはこの1週間、文字情報を、紙か電子か、どちらからより多く仕入れましたか」(植村八潮 東京電機大学出版局長)
この質問が会場の聴衆に発せられました。さて、あなたはどちら?会場の結果は、紙が2割、電子が8割でした。講演者は、どこの会場も大体同じですね、と感想を言い、デジタル時代の到来を聴衆に印象づけていました。
「ある大学で講義をしているときに驚いたのが、マスコミ志望なのに毎朝、自宅で新聞読んでいる人が1割ちょっとしかいない」(岡田直敏日本経済新聞常務取締役 シンポジウム「デジタル時代の文字・活字文化」日経12/27)岡田は、新聞の一覧性は魅力、読もうと思っていない記事も気づく、紙で読むことは上質なことと、紙の優れた点を主張しますが、しかし実情は新聞が読まれていないという事実です。
2、夢の電子図書館
既存の書籍の電子化は進んでいます。世界で最大の電子図書館といえるグーグルは、すでの1600万冊の本をデジタル化しました。日本の国立国会図書館は、国内図書の約1/5にあたる89万冊をデジタル化しました。これは1968年までの図書すべてです(長尾真 国立国会図書館長)。
デジタル化の大きな問題は出版社と著者の収入が減ること。この問題を流通システムが解決すれば、私たちは日本中の(電子)出版物にアクセスできるようになります。グーグルは日本を含む英語圏以外の書物のデジタル化と公開はしないと表明しています。国会図書館が日本での電子書籍のメッカになります。だれでもどこからでもどんな本も読める、夢の電子図書館が完成します。
電子書籍の第2のメリットは、書籍が部品に解体されることです。スパーコンピュータの言語処理で因果関係により部品同士をリンクさせ並び替え、新たな知識を作ることができます。
そして電子書籍の第3のメリットは電子教科書です。教科書の表現は文字と映像で多彩になり、しかも対話式、双方向性を持ったものになります(前掲長尾真の講演から)。
3、知識社会の変貌
iPodにより、音楽CDビジネスは崩壊しました。ガラパゴスやリーダーの端末戦争により書籍ビジネスも崩壊するのでしょうか。問題はそんな小さなことではありません。デジタルネットワークは人間社会を根本的に変えようとしています。
たとえば、ケータイ小説の「魔法のiランド」には、60~70万人の作家がいます。さらにフェイスブックには世界に5億人の会員がいてそれぞれがプライバシーを公開し情報を発信しています。この大衆の新時代を角川歴彦(角川グループホールディングス会長)は「ソーシャル社会」と名づけます(「シンポジウム『デジタル時代の文字・活字文化』日経12/27)。前の時代の知識社会では知識人がマスメディアで国民の世論を引っ張りました。ソーシャル社会では、大衆の数の力と大衆が発信するリアルな情報が力を持つようになります。そして国家体制、大会社体制も揺らいでくるのです。
漁船衝突映像、米国務省の公電、警視庁内部資料の流出も、大衆が声を発する告発の時代が来ているからだと、角川は指摘します。
「ソーシャル社会」とはどんな社会になるのでしょうか。国や、会社や、本は、なくなるのでしょか。そんな大変動でないにしろ、紙の本や紙の新聞は読まなくなるのでしょうか、電子書籍はどんな文化を生み出すのでしょうか。