女性天皇を巡る議論は恐すぎませんか。

コンテンツ・ビジネス塾「天皇」(2011-3) 1/25塾長・大沢達男
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1、お世継ぎ
皇室が危機に瀕しています。お世継ぎの問題です。現在の皇室典範の通りにやっていくと、天皇になれるものがいなくなってしまう、伝統が途絶えてしまうという心配です。
皇室典範(1947年に制定された皇室を規定する法律)には、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と書いてあります。これに従えば次の天皇は、第1位皇太子殿下、第2位秋篠宮殿下、第3位悠仁親王殿下になります。しかし、秋篠宮殿下より若い世代の皇族は悠仁親王殿下以外、敬宮愛子内親王殿下をはじめ8人全員女性です。ということは次代の皇族はやがて悠仁親王殿下ひとりになり、もし悠仁親王殿下に男子が誕生しなかったら、皇位は継承できなくなってしまうことになります。
2、皇室典範の改正
この皇室の危機を脱出するために、平成18年1月、時の小泉首相皇室典範の改正を考えました。「皇位継承資格については男女にかかわらず長子を第一とし、女子や女系の皇族に拡大することが適当である」、しかしこの改正は悠仁親王の誕生により実現しませんでした。
ある調査によれば、女子が天皇になってもいいと国民の7割以上が考えています(日本世論調査会の2001年7月の調査。財・日本世論調査協会のサイト)。ところが皇室典範は改正されず、女性天皇誕生についての激しい論争が展開されています。その激しさは、皇統維持の目的は同じにもかかわらず、相手を罵倒するような恐ろしいものです。
1)『新天皇論』(小林よしのり 小学館)。
皇室典範改正派。女性天皇を認める。なぜなら過去に推古天皇をはじめ、たくさんの女性天皇がいるから(8人10代)。そもそも日本の国を初めて治めた天照大神は、女性。天皇は男子と定めたのはシナ的な男尊女卑の思想の影響でしかない。現実問題として、まず男系男子だけだと皇位継承は無理。側室(正妻以外の女性)は現代的ではない。さらに旧宮家の皇族復帰も夢物語にすぎない。万策は尽きた。皇室典範を改正し、愛子さま皇位継承者にすべきである。
2)「皇位継承をめぐる危機とは何か」(高崎経済大学教授 八木秀次 『別冊正論14』)
確かに女性天皇は存在した。しかしそれは中継ぎの補佐役でしかなかった。まず女性天皇は男系の女子である。さらに配偶者との間に子をもうけ、その子が皇位継承者になることはなかった。そしてその緊急自体を乗り越え、皇統は男系によって継承されてきた。「皇室典範改正派」は、浮薄(ふはく=あさはか)である。神武天皇以来の皇位継承の原理原則に大変革をもたらすことに気がついていない。危機を回避するためには女性天皇を容認し、さらに皇室典範を改正し旧宮家の男系男子の皇籍復帰もさせるべきである。
3、天皇
1)天皇は支配者ではありません。祭祀(さいし)の最高権威者です。キリスト教でいえばローマ法王です(『天皇論』小林よしのり 小学館 )。天皇は五穀豊穣と国民安寧を祈ります。
2)天皇は王様ではありません。EMPEROR(皇帝)もKING(王)も、ともに力の強い征服者を意味しました(「誰よりも深く愛子さまの教育を憂う」篠沢秀夫 『文芸春秋』11年2月)。
3)天皇は日本の文化です。最古の歌集万葉集天皇の歌から始まっています。小倉百人一首天皇の歌から始まっています。日本語の成立は天皇を抜きにして語れません。
今年は西暦2011年(キリストが誕生してから)、天皇に即して言うと皇紀2671年(初代の天皇神武天皇が即位してから)になります。「天皇」という称号が使われるようになった推古天皇からでも、1400年以上の歴史があります。現在のイギリス王室は20世紀に入ってからの歴史、有名なフランスのルイ王朝も16世紀〜18世紀、ヨーロッパの王室は伝統に乏しく、王位争いの歴史しかありません。ヨーロッパの王政と日本の天皇を比較することはできません。そもそも「天皇制」という言葉は、西欧をまねて天皇打倒を叫ぶ左翼の用語です(『皇室伝統』谷沢永一 PHP研究所 P.19)。
日本は天皇であり、天皇は日本です。お世継ぎの問題を現実的に解決する必要があります。