やりまくる、『ノルウェイの森』を見ましたか。

コンテンツ・ビジネス塾「ノルウェイの森」(2011-2) 1/18塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、セックスの映画
「『ノルウェイの森』を見ましたか?」「まだですけど、どんな映画なんですか?」
「やりまくる映画ですよ!松山ケンイチが、」「え?え?えー!!」
ということで早速、映画『ノルウェイの森』(監督トラン・アン・ユン 出演松山ケンイチ菊池凛子水原希子、桐島れいか)を見に行きました。
たしかに、松山ケンイチが演ずるワタナベは、映画に登場する主要な女性すべてと、セックスをします。とくに菊池凛子が演ずる直子とは何度もセックスをします。しかもワタナベは直子の手と指でいかせてもらい、さらには大空の下でフェラチオもしてもらいます。そればかりではありません。映画には、スワッピングをするナンパや、直子が同性愛を楽しんでいるというプロットも登場します。
でもこの映画はエロ映画ではありません。映画の教科書に使えるような優れた映像と音楽の映画で、私たち日本人に重要なことを問いかけてくる映画です。なぜか?
それは1995年に映画デビューのわずか2作目『シクロ』で、ヴェネティア国際映画祭グランプリを獲得した、ベトナム出身の天才トラン・アン・ユン監督の作品だからです。
2、トラン・アン・ユン監督
『シクロ(CYCLO)』(1995年フランス、香港、ベトナム共同製作)は、ホーチミン市サイゴン)でシクロ(三輪自転車)を運転する男の物語です。ベトナムアメリカに勝利し解放されたのは1976年、それから20年後、18歳の男が支える貧しい家族の生活をリアルに描いたドラマです。世界は、初めて見るベトナムの現実に驚き、そしてそれを描いた映像に驚きました。
まずエロがありました。売春宿に登場する客は、女の放尿シーンを見、女のストキングをハサミで切り、足指を洗い、手錠プレイを楽しむような、異常性欲の持ち主でした。
さらにテロを描きました。後ろ手にイスに縛られ、透明なビニールテープで猿ぐつわをされた男の首がナイフで切られます、平和な街の昼下がりにビルの屋上で男がナイフでめった刺しにされます。異常で残酷な映像に世界は震え上がりました。
そして、映画にはこれらのエロとテロを上回る、「ラブ」がありました。ラブとはジョン・レノンが"LOVE"で歌ったような、やさしさです。ストーリーとは関係なくインサートされる微笑み、歌い、合奏する子どもたちの映像で、トラン監督は人類の愛と夢を描きました。
3、ぼくたちは、どこに、いる
ノルウェイの森』は松山ケンイチがやりまくるだけの映画ではありません。
頭を冷やして、映画を見直すと、わかります。これは日本のていたらくを日本人に問いかける映画です。トラン監督は、重厚長大から軽薄短小へ、忍耐から快楽へ、ダサイからオシャレへの、日本の変節を描きました。
まず映画の主人公ワタナベの友人は、高校時代に哲学的な自殺を遂げた男から、大学時代に70人以上の女と寝た先輩に変わります。先輩は大学でナンパだけを学び外務省に合格します。日本は、哲学する人ではなく遊ぶ人を求めるようになりました。
つぎに直子は自殺した男とセックスをしていませんでした。セックスをしなかったのではありません。できなかった。ウブでヘタだったのです。その後、直子は同性愛を楽しむまでに進化しますが、やはり我慢の人でしかありませんでした。日本は、忍耐から快楽へと突き進んでいきます。
そして映画にはワタナベの新しい恋人として緑(みどり)が登場します。田舎の直子ではなく、都会の緑です。温水プールで緑とワタナベがデートするシーンにはゾクゾクします。日本は、ダサイからオシャレに変わっていきます。
「いま、ぼくは、どこにいるのだろう」すべてが終わった後、主人公のワタナベはつぶやきます。重厚から軽薄へ、忍耐から快楽へ、ダサイからオシャレへ、日本は変わった。そして現在日本は、停滞の中に20年間もいる。日本人はどこにいて、どこに行くのか。外国人のトラン監督は、日本人が描けないでいる日本人の自画像を、日本の美しい四季とともに、見事に描き切りました。