アガワさんの『聞く力』は、ちょっとキケンな本です。

クリエーティブ・ビジネス塾48「聞く力」(2012.12.11)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、魅力的な人々
2012年を代表するベストセラー、『聞く力』(阿川佐和子 文春新書)が、まだ売れています。
阿川佐和子の父親は作家の阿川弘之です。同じく作家の檀一雄の娘である檀ふみと有名作家の教養あるお嬢さまタレントとして売り出されてきました。『聞く力』は阿川自身が続けてきた週刊文春誌上の「この人に会いたい」の900回、20年の連載経験をもとにまとめられたものです。「聞き方」といってもインタヴューや対談のテクニックがその内容です。
なぜ売れたのか。まず第1はインタビューアーの阿川佐和子の魅力です。アガワさんが自立している女性だからです。しかも有名作家のお嬢さまという教養のバックグランドを感じさせるからです。
売れた理由の第2は、インタビュー相手に登場してくる人々が魅力的だからです。スターやセレブリティの内幕を知ることができるからです。
饒舌そうな城山三郎が聞き上手てある。『失楽園』の渡辺淳一は初対面にブスっとしていて、恐そうだった。しかし突然にこやかになり、人の心を溶かしてしまう。バイク事故の北野武が自分はもう終わったと覚悟していた。そうして『HANA-BI』が生まれた。20年以上連れ添った妻との離婚直後の井上ひさしの落胆ぶりは尋常ではなかった。映画監督の是枝裕和は、組織で生きられず何度も挫折、それで映画監督になった。臨床心理の河合隼雄はアドバイスをしない、聞く名人であった。時の人の裏(うら)や内(うち)を知る楽しさがあります。
2、国際基準
「聞く」は、コミュニケーション、プレゼンテーション、ネゴシエーション(交渉)のMBA経営学修士)の学習で、世界のビジネスエリートが学び研究しています。
1)アイコンタクト
MBAの教科書には、聞くも話すもまずアイコンタクトをしっかりしろと書いてあります。
日本人はアイコンタクトをしない風習がありました。とくに目上の人の話を伺うときはそうでした。『聞く力』ではエチオピア人もそうである、面白いエピソードが紹介されています。しかしこれは無視していい話。アイコンタクトをしっかりする習慣をつけたいものです。アイコンタクトをして話すことができない日本の総理大臣がいました。あれは国際的な恥です。
2)リピート
話し手の言葉の一部を繰り返す。たとえば、「これは10ドルです!」と、言われたら「10ドルですね!」とリピート(繰り返す)する。これも聞き方の国際基準になっています。
『聞く力』では、「オウム返し」という言葉でリピートを説明しています。オウム返しとは「鸚鵡返し」、『人から言いかけられた言葉を、そっくりそのまま返答すること」(広辞苑)です。英会話ではリピートはあたり前です。リピートで発言しているものは聞いていてくれると判断します。
3)ミラーリング
ミラーリングとは鏡です。言葉をリピートするだけでなく、話し手の仕草、ジェスチャーをまるで鏡に映っているかのようにまねることです。「こんな大きな魚を釣ったんだぜ!」と言いながら話し手が両手を1mほど広げたら、うなづきながら、聞き手も同じように両手を1m広げるのです。話は盛り上がります。ちなみにこの「ミラーリング」について『聞く力』は触れていません。
3、女子力
アガワさんは「未婚』。『聞く力』読んで一番印象に残るはこのことです。そしてもうひとつ印象に残るが「離婚」の話題。アガワさんは「そんな?」とおっしゃるかもしれませんが。読後にこのキーワードがじわりじわり迫ってきます。結婚なんて意味がない。そして女と男はいつか必ず離婚する。
『聞く力』が売れた第3の理由は、「未婚」と「離婚」が、世の中の支持を受けているからです。なによりそのことを証明しているが、少子化です。「女子力」とか「女子会」とは何でしょうか。プチ「未婚」やプチ「離婚」を楽しむ会ではないでしょうか。
『聞く力』は、女子力の証明の書であり、少子化の危険の書です。アガワさん、ごめんなさい。