サイゼリアは売りか買いか

クリエーティブ・ビジネス塾7「サイゼリヤ」(2013.2.13)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、5年後の1500店に
サイゼリヤサイゼリアではない)でミラノ風ドリアを食べたことがありますか。食前にキャンティワインをいただきましたか。おつまみのプロシュート(生ハム)はどうでしたか。どれもが本物です。おいしい。その味の素晴らしさは、海外経験豊富な小説家・村上龍が「うまい」とほめたほどです。しかも、今あげた3品をすべてオーダーしても、2000円になりません。
ファミリーレストラン大手のサイゼリヤが出店を2倍に加速します。いままで年間出店数40~70を100前後に増やします。千葉市にカミサリー(食材加工工場)を新設し、5年後には1500店体制になります。現在のファストフード、ファミリーレストラン各社の店舗数は、マクドナルド3280店、すき家1888店、ガスト1621店、吉野家1191店、サイゼリヤ949店です(日経1/26)。このメンバーから見ると、サイゼリヤがトップのマクドナルドを狙う日はそう遠くありません。ミラノ風ドリア299円、ビッグマック320円。あなたはどちらを選びますか。
2、なぜうまいか。なぜ安くできるのか。
まず食材が違います。サイゼリヤがドリアに使う米は、福島県白河市の自社農場で作ったものです。サラダの野菜も同じです。野菜は傷みます。4℃で保管されます。すべての食材保管には、温度、湿度、時間、振動に最大限の注意が払われます。ホワイトソース、ハンバーグは、オーストラリアの自社工場で作られています。ミルクの味には、乳牛の飼料にまで、配慮されています。
つぎに加工法が違います。味はカミサリー(工場)で作られます。店ではフライパン、オーブンで温めるだけです。だれが作っても味のばらつきがありません。
ではなぜ安いのか。
主要な原材料は自社製だからサイゼリヤは安い。それだけではありません。サイゼリヤは原材料費でケチっていません。むしろ競業他社より原材料が高い。
どこが安いのか。人件費です。低賃金で雇っているのか。違います。サイゼリヤの従業員はむしろ高収入です。少人数がたくさんの仕事を効率よくこなしているのです。サイゼリヤではホールの仕事とキッチンの仕事をだれもがこなします。
サイゼリヤのオーナーは、店の混雑時に作業が乱れているのを目撃しても、店員をしかりません。「従業員ができない仕事をなくしたい」と考えるからです。そしてテーブルを拭くは「布巾をテーブル上で左右に4回往復させること」、ライス皿を洗うとは「左手で持って、右手でスポンジを3周回す」の作業基準を作り、教えています。
うまいは原材料と加工法から、安いは少ないスタッフが効率的に働くことで、実現しています。
3、正垣泰彦
サイゼリヤの創業者は1946年生まれの正垣泰彦(しょうがきやすひこ、現会長)です。学生時代に千葉県市川市サイゼリヤでバイトをし、オーナーに気に入られ経営権を取得し、洋食屋をオープンします。しかしやって来た客はならず者ばかり、1年目に客にストーブをひっくり返され火災を起こし全焼、店を失います。しかしリベンジ、1968年に驚異の低価格7割引スパゲッティ150~200円の、イタリア料理店サイゼリヤを始めます。
「人のために・正しく・仲良く」が、サイゼリヤの経営理念です。人のためにとは、お客を増やすこと。正しくとは、会社もお客さまも従業員も喜ぶこと。そして仲良くとは、仲良くなるために人を公正に評価することです。さらに正垣はこうも言います。「利他の精神を持ち、社会に貢献する」。これは別にきれいごとを言っているわけではありません。お値打ち感があって、お客さまがまた来たい思うお店しか、商売を続けることができない。当然のことです。お客さまに喜ばれることを最優先にすれば、「儲ける」のではなく、自然に「儲かる」のです(『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(正垣泰彦 日経BP社)。
ユニクロ柳井正サイゼリヤの正垣泰彦。優れた経営者の名前の中には、「正」しいという文字があり、「正しい」を経営理念に掲げています。