クリエーティブ・ビジネス塾29「サントリー」(2014.7.19)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、新浪剛史(55歳)
サントリーはローソンの新浪会長を10月1日付で社長に招くことにしました(日経6/24)。新浪氏は81年慶大経卒、三菱商事入社。02年にローソン社長に就任し、さまざまな新施策を実施しました。さらに政府の経済財政諮問会議、産業競争力会議でも活躍をしてきた日本を代表する若手の経済人です。たとえば、「ナチュラルローソン」の創設、「HMVジャパン」の買収は新浪氏の功績です。
一方サントリーは1899年(M32)鳥井商店の葡萄酒販売から始まる110年の歴史を誇る企業です。これまで創業家から、鳥井信治郎、佐治敬三(信治郎の次男)、鳥井信一郎、佐治信忠と社長を輩出してきました。新浪社長の趣旨は、グローバル化への対応と、創業家の次世代が育つまでのつなぎであることです。この5月にサントリーは米蒸留酒最大手ビームを買収、蒸留酒事業で世界第3に浮上、国内では合計売上高で飲料トップに躍り出ます(日経5/1)。そして創業家では鳥井信宏(48)がサントリー食品インターナショナル社長にまで育っています。
2、サントリー
サントリーは大阪の企業。社是は「やってみなはれ」精神です。「やってみなはれ」とは、人のやらないこと、新しいことに挑戦することです。
1899年(M32)に葡萄酒販売を始めました。1929年(S4)にウイスキーのホワイト(白札)を、1937年(S12)に角瓶(サントリーの角)を売り出し、いまではウィスキー、ビール、ワイン、清涼飲料水、外食・内食、生花、文化・社会の優良企業になっています。広告の上手な企業としても有名です。作家の開高健、山口瞳、イラストレーターの柳原良平を宣伝部に雇っていました。
文化・社会事業でも世の中に貢献しています。サントリーホールは日本を代表するコンサートホールです。サントリー美術館もあります。さらに愛鳥運動でもサントリーは有名です。
3、ウイスキー
日本には世界に誇る「酒」と「焼酎」がありますが、日本人は英語を学ぶように「ウイスキー」を知らなければなりません。トランジットタイム(飛行機の乗り換え時間)、夕方のパブ、ホテルのバーなどで、ウイスキーの知識はなくてなならないものです。その意味でこのたびのサントリーの「ビーム」社の買収は驚くべきものです。
スコッチウイスキーでは「ラフロイグ」「ボウモア」「ティーチャーズ」、アイリッシュウイスキーでは「キルベガン」、カナディアンウイスキーでは「カナディアンクラブ」、アメリカンウイスキーでは「ジムビーム」「メーカーズマーク」「ノブクリーク」そしてジャパニーズウイスキーでは「山崎」「響」(日経5/1)。
サントリーはウイスキー販売であたかも世界制覇を成し遂げたような状態になるからです。逆に言うとサントリーの「山崎」が世界ブランドになる可能性があります。
サントリー「山崎」はウイスキーの国際的なコンペティションでよく最高賞に選ばれています(しかしそれは「スコッチぬき」のコンペのよう)。でも実力は認められいます。
昨年香港で香港を代表する映画スター&シンガーのライブ打ち上げパーティーに参加しました。テーブルにいま流行のスコッチのシングルモルトやアイラに並んで「山崎」がありました。中国のスノッブな芸能人は「山崎」の人気に敏感でした。
それより驚くことがありました。『007号は二度死ぬ YOU ONLY LIVE TWICE』(イァン・フレミング 井上一夫訳 早川書房)です。「サントリー(中略)あれはよくできたウイスキーだ。いちばん安いホワイトラベルだけを飲めよ。(中略)もっとしゃれたのが二種類あるが、いちばん安いのがいちばんいい」(前掲p.52)。ジェームス・ボンドの仲間がこのセリフを言います。
小説家イァン・フレミングは、英国情報局で働いていました。プロ中のプロのスパイ。その人が日本のウイスキーを評価しました。外交辞令ではありません。『YOU ONLY LIVE TWICE』が出版されたのは1964年。日本人は日本のウイスキーをバカにしきっていて「ジョニ黒=ジョニーウォーカー」を崇拝していました。恥ずかしくなります。日本には英国人が評価するウイスキーがあったのです。
新しいサントリーに乾杯。今日はホワイトを飲もう。