ネットに引きこもっていませんか。

クリエーティブ・ビジネス塾34「ネット社会」(2014.8.19)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、弱いリアル
ネット社会は強い絆のあるコミュニティ社会である。安心して住んでいられるが、何の進歩もない、あなたは変化することはできない。なぜなら検索する言葉がすでに限定されているから、答は全て想定内、目新しいものはない。「グーグルが予測できない言葉を手に入れよ!」。団塊ジュニアを代表する思想家・東浩紀(あずまひろき)がそう主張し、その著『弱いつながり』(幻冬社)をヒットさせています。ネット社会を否定しているのではない、いまを生き抜くための知恵を提案しています。
東浩紀の提案は具体的で分かりやすい。予測できない言葉を手に入れるために、環境を変えろ旅に出ろ、を提案します。たとえばちょっと変な例ですが、あなたが東大に入学したいなら、東大にたくさん入学している中高一貫教育の学校を選べばよい。そこに行けば東大突破の方法は楽々と手に入る。東浩紀は自らの例をあげ証明しています(東浩紀は筑波大付属中高から東大)。そして旅。グ−グルでは世界のどこへでも簡単に旅ができる。しかしそれは投稿者の旅日記でしかない。あなたに変化をもたらす旅ではない。東浩紀はリアルに触れることを提案しています。
2、観光
旅のことを東浩紀は「観光」と言います。目的は日常に「ノイズ」と入れるためにです。地域に深くコミットメントせよ、ではありません、ミーハー的な旅でいいのです。
東浩紀は、旧ソ連、現ウクライナチェルノブイリを観光しました。チェルノブイリ原発事故は1986年。観光してビックリ。いまのチェルノブイリには日常があります。原発は市の中心部から15キロ、原発の30キロ以内は立入禁止区域。しかし市内は無人ではない。役所、研究所、食堂があり、車が走っている。なぜならチェルノブイリ原発は発電はしていないが送電所として使われている。原発内には3000人の労働者が働いている。立入禁止区域内の空間放射線量は東京と変わらない(前掲p.74~p.76)。驚きです。チェルノブイリ観光をしてみたくなります。
そして東浩紀はさらに大胆。「福島第一原発観光地化計画」(アイディアはチェルノブイリ観光以前から持っていた)です。チェルノブイリから25年後に福島、だから25年後に福島第一原発跡地を観光地に変えてしまおうという計画です。東京から福島第一原発までは220キロ。近郊の駅から観光客を送り込みます。跡地を放置するのではなく観光地化して事故の悲劇を未来に伝えるのです。博物館、除染技術の研修センター、事故のモニュメント・・・モデルはNASAケネディ宇宙センターです(前掲p.41~p.42)。
さらに東浩紀は提案します。フクシマは抽象的すぎる。福島には会津中通り浜通りがある。それぞれ被害の質は違う。そこであるNPO法人が提案している、原発被災地の双葉町大熊町浪江町広野町・・・を統合して「双葉市」を作る案に賛成しています。原発被災地といっても福島市郡山市と「双葉市」とは違います。放射能被害が深刻なのは「双葉市」です。検索にかかりやすい言葉をつくれば原発被害の問題は整理される、というのです。
「観光」という言葉は強すぎ、誤解されるかも知れない。軽薄すぎるだろう。東浩紀は何度も断っています。しかしこれこそが風化させない方法です。東浩紀に賛成します。
3、性
「百聞は一見に如かず」のように、リアルに触れることの重要性は、過去さまざまなかたちで表現されてきました。ジャーナリストは「記事は現場で書け」、広告のクリエーターは「コピーは足で書け」と教わります。さらに学問の世界でも、書斎科学や実験科学だけではない、これからは「野外科学」(川喜田二郎)やフィールドワーク(文化人類学)だ、と教えます。
言葉は大脳新皮質(理性)です。リアル触れるとは大脳旧皮質(感性)や大脳古皮質(本能)を使うことです。あなたは全感覚を使うことで、あなたを新発見します。リアルな体験はあなただけのオリジナリティを保証するもので、クリエイティビティの源になります。
「ひと晩一緒に過ごしたという関係性が、親子や同僚といった強い絆をやすやすと超えてしまう」(前掲p.112)。性も旅のひとつ。そう主張する東浩紀はなかなか魅力的です。