難民を引き受けることで、日本は変わる。

クリエーティブ・ビジネス塾43「難民」(2015.10.28)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、難民
難民とは、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるか、あるいは受ける恐れがあるために他国に逃れた人々」です(国連の難民に地位に関する条約1951年)、あるいは「戦渦、政治的混乱や迫害を避けて故国や居住地外に出た人」(広辞苑)です。英語では”refugee"(避難民、難民、亡命者)です。
難民・移民とよく列記されますが、移民(immigrant)は自由意志に基づいて平和的に生活の場を外国に定住する人、あるいは「仕事に従事する目的で海外に移住する人」(広辞苑)で、難民とは微妙に違います(「難民百万人ヨーロッパの憂鬱」宮下洋一 『文芸春秋』2015.11)。
いま問題の難民はどこで生まれているか。シリア難民が最多で、約400万人が周辺国に逃れています。ソマリアリビアからの難民もいます。その10%が地中海をはさんでイタリアへギリシャへ、そしてそこからヨーロッパ大陸を目指しています(日経10/5)。とくにドイツには今年になってから8月までに40万人が、さらに年内には80万人の難民が押し寄せることが予想されています。キリスト教ヨーロッパ大陸イスラム教徒の難民によりその姿を大きく変えようとしています。
2、ローマ帝国
ヨーロッパ大陸には昔から何らかの理由による難民がいました。古代のローマ帝国では難民は入るのも入った後の行動も自由でした。しかしローマ帝国の法は絶対に守ることが義務づけられていました。
第1に、難民に特別な保護は与えらませんでした。ローマ市民権所有者に保証されていた餓死しない程度の小麦の無料配給はなく、納税義務のない奴隷よりも厳しい環境で生きていかなければなりませんでした。
第2に、ローマ帝国は強大でした。難民の発生地の安定化にも力を注ぎました。難民の発生原因を絶ちました。まず軍事力で内乱を鎮圧、そして資金を投入し、産業をおこし雇用を確立しました。
現在のヨーロッパではこのローマ帝国がとった行動ができません。
まず人権の世の中では難民を見放すことはできません。ドイツは、難民が職に就けるまで、月々287~359ユーロ(約3~4万円)の生活保護を与えています。住居も医療も提供されます。原資はドイツ国民の税金です。これもEUの勝ち組であるドイツだからできること、イスラム問題で悩むフランスや高失業で悩むスペインで、まして財政破綻ギリシャでは到底できません。次に強大な軍事力はありません。あったとしても内政干渉になります。シリアやリビアを軍事攻撃することはできません。結論、EU諸国の意志に関係なく難民問題は現在の状況では根本的な解決はできません(「残暑の憂鬱」塩野七生文芸春秋』2015.11)。
3、日本
安倍晋三首相は国連総会で、シリアやイラクの難民支援に今年は昨年の3倍にあたる約8億1000万ドル(約972億円)を拠出、中東やアフリカの平和構築に新たに7億5000万ドル(約900億円)を供与すると約束しました。しかし難民の引き受けには、消極的です。昨年、日本への難民申請は5000人にのぼりましたが、難民と認定されたのはたったの11人でした。日本は難民問題にたいして金だけでいいのか。
まず難民はひと言で難民とくくれません。ドイツが初め難民に寛容だったのはエリート難民を自国の労働力として引き受けようとしたからです。金を持っている者、情報の入手が速い者、つまりその国のエリートだけが難民でした。現在では「難民業」と呼ぶべき身分が存在しています。難民申請の最中には強制退去させられない、だから繰り返し申請する。単純に日本は難民認定が少なすぎるとの批判はできません。
つぎは日本人の外国文化への無理解です。私たちはハラルもコーシャも知りません。ハラルはイスラム教の教義に基づいた食事規定、コーシャはユダヤ教の教義が教える食事規定です。私たちは世界の常識の基礎的な知識を持っていません。日本人は「精神や文化の雑居」に慣れていません。結論は、難民受け入れは時期尚早です(「難民受け入れは時期尚早だ」曾野綾子 『文芸春秋』2015.12)。
しかし本当の結論はその先にありました。「敵対部族であっても、相手にパンが無い時には、自分のパンを半分与えねばならない」、難民受け入れは「義務」であり、「慈悲」や「親切」である(前掲 曾野綾子)。
ではどうするか。パンを与えるにはまず難民を引き受け、実践のさまざまなトラブルの中で、イスラム文化ユダヤ文化を学ぶしか方法がないと、思えるのですが。