ロボットはアンドロイドではない。

クリエーティブ・ビジネス塾8「AI」(2016.2.17)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、「アルファ碁」
グーグルが開発した人工知能(AI=Artificial Intelligence)が囲碁でプロを破り、日本経済新聞の一面に大きく報道されました(1/28日経)。囲碁AIの名は「アルファ碁」。「アルファ碁」はその天文学的な数の局面をすべて計算するのではなく、コンピュータが自ら学習する「ディープラーニンング(深層学習)」を呼ばれる手法を採用し、人間のようにデータや経験をもとに一手を決め、人間に勝利しました。IBMの「ディープ・ブルー」が、チェスで世界チャンピオンに勝ち越したのは、1997年。オセロで「ロジステロ」が世界チャンピオンに全勝したのは1998年。将棋では2010年に女流棋士をコンピュータが破っています。
日本経済は長期に渡り停滞していますが、AIとロボットが救世主になると注目されています。まず労働力人口の半分は自動化が可能になる。つぎに自動化は日本の労働力不足を解消する。さらにロボット革命はICT革命で出遅れた日本を救う、というものです(「人工知能は職を奪うか」上 M・オズボーン C・フレイ オックスホード大 日経1/12)。自動化可能な仕事は、鉄道の運転手、会計・経理事務職、税理士、郵便窓口、タクシー運転手、などです。逆に自動化される可能性が低い職業は、ソフトウエア開発者、判事、看護師、高校教師、歯科医、大学講師、などです。
2、人工知能と人造人間
疑問があります。そもそも、AI(人工知能)とは何でしょう。知能とは知識と才能、知性の程度のことです。AIにより私たちの労働は軽減されるかもしれませんが、AIは私たちにとってかわることはできません。自動車の自動運転の時代はきますが、AI兵器は無差別に人間を攻撃します。AIは善悪を判断しません。AIは喜怒哀楽の感情を持ちません。ビッグデータを操り、論理的な思考をするかもしれませんが、感情を持ちません。生命体として人と環境と共生して行く本能を持っていません。
次の疑問は、AIが人工知能であり、人造人間(アンドロイド)ではないことです。「アルファ碁」は身体を持っていません。立ち上がったり、歩きながら考えることをしません。ステーィブ・ジョブズは、大切な打ち合わせをするときには、必ず歩きながら話をしました。AIは身体を持った人造人間ではありません。まして恋をしたり、性的な欲望を持つことはあり得ません。
さらなる疑問があります。チェス、将棋、囲碁が強いとは、計算のスピードが速いというだけで、知能が高いことを意味するのでしょうか。人工知能が最強だと、決めてしまっていいのでしょうか。
私たちはチェスの天才ボビー・フィッシャーを知っています。あるいは破天荒な私生活を送った囲碁藤沢秀行を知っています。ユダヤ人のボビー・フィッシャーは存在自体が国際問題で、さらには女性問題でも物議をかもしました。藤沢は常識を超えてデタラメです。4人の妻を持ち、正月にはそれぞれの家族全員を集合させた、といいます。ボビーも藤沢も知能が優れているだけとはいえません。官能や本能に秀でていました。それが創造力=強さにつながっていたと思えます。AI(人工知能)は人間の能力のほんの一部を機械化しているに過ぎません。
3、ロゴス・パトス・エロス
人間は3つの脳を持っています。まずヒトとしての脳、大脳、大脳新皮質です。つぎに哺乳類としての脳、ウマの脳、大脳辺縁系、大脳旧皮質です。そして生物としての脳、ワニの脳、脳幹、大脳古皮質です。
AIが課題にしてきたのは、大脳新皮質の能力の一部です。チェス、オセロ、将棋、囲碁、大きくいって計算。座っていて考えていてオーケー。電子計算機の能力です。現在のAIの研究は大脳辺縁系、大脳旧皮質に移動していません。喜怒哀楽のコミュニケーションを扱っていません。だからコミュニケーションが今後も人間が活躍できる分野として残されています。
さて創造性とはなにでしょうか。創造性には、大脳、大脳辺縁系、脳幹、つまり大脳新皮質、旧皮質、古皮質が深く関与しています。ロゴスの力、頭がいいだけでは創造性は生まれません。パトスの力、感受性が豊かであること、そしてエロスの力、愛と性の力で優れていること必要です。エロスの力とは、エロ、テロ、サド、マゾ、ホモ、ヘテロです。
AIは今のところロゴスの力だけ、パトスやエロスの力を持つには、まだ時間がかかります。いまはまだ「Robot(ロボット、機械人間)」の時代です。「Android(アンドロイド、人造人間)」の時代は未来です。