『昭和史』(岩波)から脱出せよ。『昭和史』(ちくま)を読め。

クリエーティブ・ビジネス塾28「昭和史」(2016.6.27)塾長・大沢達男

「『昭和史』(岩波)から脱出せよ、『昭和史』(ちくま)を読め。

1、昭和史
いまでは『昭和史(新版)』(遠山茂樹 今井清一 藤原彰著 岩波新書 1959年)を、読む人はいません。しかしかつてはベストセラーでした。そしていまだに妖怪のように日本人の平和論を支配しています。私たちは『昭和史』(岩波新書)を卒業し、『昭和史』(ちくま新書)を学ばなければなりません。
まず『昭和史』(岩波)は「天皇制」と「ファッシズム」により戦争をしたとします。私たちが何気なく使う「天皇制」はコミンテルン共産主義インターナショナル)が「32年テーゼ」で使った言葉です。「天皇」は変えることができる体制ではありません。日本の社会と文化に古くからあるものです。「ファッシズム」も同じです。東京裁判で勝者の連合国側が、ドイツ・イタリアと同じように、日本を裁くために使った言葉で、「ファッシズム」の定義は不明確です。さらに『昭和史』(岩波)は「太平洋戦争」という章句を設け記述しています。「太平洋戦争」とはGHQ(占領軍)が日本を統治する言論統制するために使った言葉です。
そして『昭和史』(岩波)はマルクス主義史観によって書かれています。ソ連邦の終焉とベルリン壁崩壊で歴史的な使命を終えた理論です。企業と国家が悪では、昭和の歴史はわかりません。
『昭和史』(岩波)に異議ありと手を挙げたのは伊藤隆(1932~)です。そしてその教え子古川隆久(1962~)の『昭和史』(ちくま新書 2016)が書かれます。さらに注目すべきは『未完のファッシズム』(片山杜秀 新潮選書)です。西欧の社会科学の方法論のよらず、天皇明治憲法を論じています。
2、『未完のファッシズム』と天皇陛下万歳
大日本帝国憲法明治憲法)の冒頭には「大日本帝国万世一系天皇之ヲ統治ス」とあります。「統治」とは「しらす」の漢語的表現です。では「しらす」とは何か。
「『しらす』とは知らすである。上に立つ者がおのれを鏡として、下の者たちを映し出す。よく映し出すことがよく知ることである。(中略)上に立つ者は自らの考えを押しつけ押し通すべきではない。」(p.219)。明治憲法全体に、「しらす」精神が貫かれ、強権政治ができないように、権力が分散化・多元化されています。
まず、立法府貴族院衆議院、平等でした。行政府にも内閣と枢密院がありました。総理大臣の権限は弱く、閣僚の調整役でした。つぎに、帝国陸海軍は、立法府、行政府、司法府、どこにも属していませんでした。内閣も議会も軍に命令できない。逆に軍が政治に介入することは法的にできない。そして三権と軍の頂点には天皇。でも強権的リーダーシップをとらず、明治・大正・昭和天皇も「しらす」を貫きました。
ではなぜ無謀な戦争をし、なぜ天皇陛下万歳と玉砕をしたのでしょうか。
欧米列強の「持てる国」に囲まれ、日本は「持たざる国」として追い込まれていった。戦争は避けなければならない。これからの戦争は、科学力、工業生産力、国家の総合力、物量で勝敗が決する。どうすればよいか。ひとつは日本が満州を経営し「持てる国」になってから戦う。もうひとつは短期決戦で勝負を決定する。金をかけず精神力で勝利をもぎ取る。玉砕戦法、天皇陛下万歳のバンザイ突撃が生まれました。
まず、日本国民という「多」は天皇という「一」に集約される。天皇が自らの本質である、自分が死ぬか生きるかはどうでもよい。つぎに、人間の本質は「まこと」を求める「まごころ」にある。「しらす天皇は、真澄の鏡となって、すべての国民の「まごころ」を背負い続けてくれる。そして「戦陣訓」が生まれます。「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず、死して罪禍の汚名を残すこと勿(なか)れ」。絶対に捕虜になるな、死ぬまで戦え。「悠久の大義に生くる」。肉体は死んでも魂は靖国神社で生きる(p.261~280)。
3、大日本帝国憲法
昭和天皇は戦争を主張し主導したことはない。しかし戦争をしぶしぶとはいえ承認している(『昭和史』(
ちくま)p.369~370)。そして敗戦までの日本の政治体制を作ったのは、伊藤博文山県有朋の明治の元勲たちである。限られた仲間だけで日本を導くことができる過信から、自由に議論ができる仕組みを作らなかった(『未完のファッシズム』p.374)。古川の結論は明治憲法の不備です。
「持たざる国」が「持てる国」に対抗しなければならなかった。日本が総力戦に不向きな国であることはみんな知っていた。だけど列強の手がアジアに伸びてくる。背伸びをしないわけにはいかなかった。でも明治憲法をそれを許さなかった。片山の結論も古川と同じです。
背伸びは慎重に。身の程をわきまえよう(『未完のファッシズム』(p.333)。北朝鮮の挑発、中国の領土侵犯、イスラム国による日本人虐殺。日本はどこまで我慢できるのでしょうか。