クリエーティブ・ビジネス塾4「認知症」(2017.1.23)塾長・大沢達男
1、認知症
「認知症」という言葉はわかりにくい。わずか10年ほど前に、用語の変更が、厚生労働省によってなされたからです。認知症とは、かつての「痴呆(ちほう)」、2004年に「痴呆」は、侮辱的、差別的で誤解や偏見のもとになっていると指摘され、「認知症」に決められました。
認知症とはなにか。かんたん言えば、「知能が後天的に低下した状態」。詳しくは、「脳のニューロンが死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために、記憶力だけでなく、思考力や行動能力までが失われ、日常の生活や活動をさまたげる程度にまでなる状態」(『ニュートン』2017.3 p.52)です。
認知症の症状には、中核症状そして行動・心理症状(BSCD=Behavior and Psychological Symptoms of Dementia)があります。
中核症状は、もの忘れ(記憶障害)、考えがまとまらない(判断力低下)、おつりの計算に手間取る(計算力障害)、料理・着替えができない、電話・テレビがわからない(失認、失行)、時・場所・人の名前がわからない(見当識障害)。行動症状は、あてもなくうろつく徘徊、暴力暴言などの攻撃行動。心理症状は、不眠、抑うつ、不安、被害妄想、焦燥感。認知症の原因は、70%近くがアルツハイマー病、20%が脳血管障害型、10%がその他です。
2、アルツハイマー
アルツハイマー病とは、記憶や思考能力などの機能がゆっくりと失われる、認知障害の病気です。はじめ、もの忘れなどで生活に支障が出てきます、やがて重症度が増すと摂食、着替え、意思疎通ができなくなり、被害妄想、幻覚の出現、暴力、暴言、徘徊、不潔行為などの問題行動が見られる、さらに最終的には寝たきりになります。患者介護には大きな困難を伴います。
アルツハイマー病になる原因はなにか。
脳内に「アミロイドβ(ベータ)」や「タウ」とよばれる”有害なゴミ”がたまり、学習や記憶に携わるニューロン(神経細胞)が死に至ることで、記憶を失ったり、思考能力が低下する(前掲p.26)のです。
”ゴミ”の蓄積は、40代のころから始まっています。高齢者の病気だと、あなどるわけにはいきません。
認知症患者は急増しています。1985年59万人、2015年500万人そして2025年には700万人に達するといわれています。
アルツハイマー病の治療はできるのか。世界で初めてアルツハイマー病の進行を遅らせた国産薬「アリセプト」が開発されています。しかしこれは根本治療ではなく、症状の進行を遅らせる対症療法でしかありません。アリセプトはアルツハイマー病の進行を9ヶ月から1年ほど遅らせる、といわれています(前掲p.43)。
3、「痴呆(ちほう)」
英語で「認知症」は、"dementia"。でも"dementia"を辞書で調べても「痴呆」としかでてきません。
逆に「認知」は、”cognition"です。「痴呆」を「認知」と言い換えた、厚生労働省の方針にはムリがあります。「認知科学」は、痴呆に関係ありません。認知科学は、知的システムや知能を理解しようとする、脳科学、哲学、心理学、人間学、教育、人工知能、言語学など、学際領域の新しい研究分野です。
日本心理学会、日本認知科学会などが、「認知症」の用語使用に反対しているのもうなずけます。
用語変更からもう10年も経っています。いまさら厚生労働省を攻めてもはじまりません。
そこで提案します。
A案。痴呆がダメならせめて「ボケ」とか「耄碌(もうろく)」を、「認知症」のあとに補って欲しい。「認知症(ボケ)」、「認知症(もうろく)」などのように。
B案。「認知症」の変わる言葉として「シニア認知症」、「エイジング認知症」、「高齢者認知症」、「老人認知症」はどうでしょうか。
ボケやもうろくは高齢者の「美しい」症状です。「認知症」という言葉は、「人格が破壊された」高齢者の「人権」ばかりを主張し、高齢者を「やさしく殺そう」としています。「ボケ」や「もうろく」という言葉には、昔はできた人だったと高齢者への「敬い」があり、「やさしいさ」があり、そして何より「笑い」があります。
地域社会では、限られた時間の会議で独占的に発言する「正義」派、わけの分からぬ大量の文書を配布する「理論」派などの自己中心(ジコチュウ)の「社会認知症」の人々が、大手を振って歩いています。