クリエーティブ・ビジネス塾5「AI(2)」(2017.1.23)塾長・大沢達男
「眼(め)」を持つことで、ロボットは爆発的に進化する。
1、カンブリア爆発
今から約5億4300年前、地球上に多くの生物が突然現れました。「カンブリア爆発」です。なぜ爆発的に生物が増えたのか。「眼(め)」の誕生によってです。
生物は眼を持つことによって、食べ物を探し、危険を回避し、素早く動き、未来を予測し、戦略を立てるようになりました。現在のAI(人工知能)の進化の段階は、「カンブリア爆発」に相当しています。それを可能にしているのが「深層学習(ディープラーニング)」です。
今までのAIは、猫と犬を見たときに、その区別ができませんでした。「猫っぽい」、「犬っぽい」を、人間があらかじめ定義してデータとして、AIに教え込む必要がありました。
深層学習(ディープラーニング)では、AIが自らデータを分析し、特徴表現を見いだし、特徴量を割り出し、猫か犬かを、判断します。「特徴表現学習」です。深層学習では、猫と犬を判断する上で何が重要かを、モデル化する作業自体を自動化しています。
つぎに深層学習では「強化学習」と組み合わせて、「運動の習熟」も実現しています。ロボットは鉄棒に飛びつき、小学生が練習するように、下手から上手へ上達できます。始めはやみくもに手足を動かしますが、やがて手足の動作に応じた身体の動きを自ら定義し、徐々にこなれた動きができるようになります。
さらにAIは「言語の意味の理解」をするようになります。文章から画像を作り、画像から文章を作ることも可能にします(松尾豊 東京大学 日経1/26)。
AIは「眼」を獲得しています。ロボットは「カメラ」ではなく「眼」を持つようになり、爆発的に進化します。
2、市場と雇用の創出
日本経済新聞は、「AIで日本を強く」を4回(1/9~1/14)にわたり、社説で掲載しました。テーマは「AIで市場や雇用を創出する」の一点です。ちょっと実践的すぎて、教養的視点からは不満が残りますが・・・。
まず、さまざまなケーススタディ。IBMのAIを使った自動診断システム、アマゾン・ドット・コムの会計が不要なコンビニ店、静岡県湖西市の農家のキュウリの等級別仕分け自動装置。
次は企業組織。自動車メーカーのライバルは、グーグルやアップル。ファナックはNTTと組んで、工作機械やロボットの稼働状況管理システムを構築している。
さらに人材。タクシーの日本交通はエンジニアほぼ全員をネット企業から採用しシステム開発会社JapanTaxi(ジャパンタクシー)を設立。「ライドシェア」に対抗するために客が見つかる確率の高い場所をタクシー乗務員に知らせるシステムの実用化を目指している。リクルートホールディングスでは、グーグル出身データ分析で著名な研究者アーロン・ハーベイ氏をスカウト。
さらにAIはITより素人にも使い勝手がいいと指摘します。
65歳以上が4割の京都府南山城村でのAIによる高齢者の生活支援実験。ベンチャー企業カラフル・ボードや紳士服のはるやま商事での、AIが消費者の好みを選び、服や食品を提案するシステム。眼鏡専門店「JINS」での、試着した眼鏡が似合うかどうかをAIが判断するサービス。日本ユニシスのグルナビデータをもとに飲食店を推薦するシステム。ヤマトホールディングスでは配送ルートづくり。アスクルでは物流センターでのピッキングロボット。吉野家ホールディングスでは勤務ソフトの作成にAIを取り込みはじめている。
最後に日経の社説シリーズは、人の知性や尊厳とはなにか、教育の問題を議論し、終わっています。
3、人間の仕事
AIが人間を追い越す日。シンギュラリティは、2045年に、やってきません。今世紀中にもムリです。
人間そっくりの強い自意識を持つ「強いAI」は実現はむずかしい(野村直之メタデータ社長『人工知能が変える仕事の未来』 日経1/15)。AIが普及した社会でいちばん希少になるのは、他者に共感する力です。医師の仕事は自動化できても、看護士や介護福祉士などは人が足りません(サティア・ナディラ米マイクロソフトCEO 日経1/30)。AI時代に大切なのは、creativity(創造性)、management(経営・管理)、hospitality(おもてなし)です(井上智洋駒沢大学講師 日経1/30)。
結論はかんたん。AI時代を生き抜くには、お客さまとのコミュニケーションできれば、いいのです。
人類が登場したのは、カンブリア爆発から5億年後、いまからたったの20~30万年前です。となると、「シンギュラリティ」まではあと5億年かかる。そこまでの惰眠は・・・許されないでしょうが。