「ファッションのテーマは、アンビギュィティ(Ambiguity=性のゆらぎ

クリエーティブ・ビジネス塾16「ファッション」(2017.4.17)塾長・大沢達男

「ファッションのテーマは、アンビギュィティ(Ambiguity=性のゆらぎ)です」

1、パリコレクション
ファッションデザイナーは年に2度新作を発表します。「コレクション」とは、新作発表のショウの集中開催のことで、ニューヨーク→ロンドン→ミラノ→パリ→東京の順番で1週間ずつ開かれます。この年間日程に従いデザイナーは新作を準備し、ファッションの企画・生産・販売のリズムが刻まれています。
「パリコレは私の1年間のスケジュールで最も重要な1週間なのよ」。映画『プラダを着た悪魔』のなかで、米名門ファッション雑誌の編集長を演ずる女優メルリ・ストリープはこうつぶやきます。ファションの世界では今も昔もパリが最高峰です。なぜでしょうか。
まず、王侯貴族の服飾文化の長い伝統がある。つぎにフランスが国家戦略としてコレクションを全面支援している。そして運営母体による情報発信、人材育成で圧倒的に優位に立っているからです(日本は2011年の民主党政権事業仕分けで財政支援を打ち切った)。
パリコレを支えている日本人がいます。
ヘア・メーキャップアーティストの大久保紀子さん(54)。1993年〜99年までパリ在住。資生堂所属です。
パリコレ参加28年の大ベテラン。日本人の繊細な色使い、丁寧な仕事ぶりで評価されています。
つぎはケータリング業の室田万央里さん(37)。ショーのスタッフは2週間前から連日徹夜状態、そのアトリエへ食事を届ける。炊き込みご飯のおにぎり、卵焼き、生春巻き、日本のおふくろの味で評判です。
そしてデザイナーの中尾隆志さん(37)。ボッテガ・ヴェネタ、ランバンを経て、現在ではルイ・ヴィトンの日本人唯一のデザイナーです。和と洋の2刀流ができるように努力中。「誰より働き、工夫する」がモットー。
さらに広報の植田沙羅さん(32)。フランスのPRエージェンシーに所属しブランドの広報を担当しています。犬の散歩から家の掃除、社長の求めにノーを言わない。よく働く絶対に裏切らない、と信頼されています。
2、スーツ
1)男性のスーツは、1860〜1870年代に産業革命が始まった英国で誕生しました。フロックコートモーニングコート、イブニングコートに代わって、裾の短いラウンジズーツがその原型です。
日本にスーツが入ってきたのは明治時代の後半で、「背広」として紹介されました。「背広」の語源は、軍人ではなく市民が着る服、’civil clothes'(シビル クローズズ)がなまって、ロンドンの高級紳士服街'Savile Row'が語源、など諸説があります。「つるし」といわれる既製服が浸透したのは、1960年代です。スーツの主流は英国製でしたが、1980年代後半に、ゆったりしたイタリア製が一世を風靡します。
2)現代のスーツのベストドレッサーオバマ米大統領です。シャツの襟先はスーツの下に収まり、ネクタイの結び目は真ん中に、ディンプル(くぼみ)も洗練され、美しいVゾーンを作っていました。
女性のスーツは20世紀に3つの革命を経験しました。まず1920年代のガブリエル(ココ)・シャネル。コルセットから女性を解放し、一人で脱ぎ着できる機能的なスーツをデザインしました。つぎに1966年のイヴ・サンローランのタキシードルック。パンツスタイルでのパーティーや会議への出席がOKになります。そして1980年代のジョルジオ・アルマーニ。やわらかの素材と色合いのテイラードスーツをデザインします。
3)現代の女性スーツのベストドレッサーは、まずメイ英国首相。スーツスタイルの可能性を広げる冒険者です。ベルト、スカーフ、大胆なアクセサリー、色柄を前例のない方法で組み合わせています。とくに靴は注目の的です。つぎはメルケル独首相。ジャケット、スーツ、どちらもパンツスタイル。ワンスタイル、マルチカラーで、思慮深く虚栄とは無縁な人柄を反映しています。最後は、ラガルドIMF専務理事。シャネルのジャケット、エルメスのバッグ、フランス高級ブランドの服、小物を嫌みなく着こなしています。
3、Ambiguity(ゆらぎ、あいまい)
いまファッションは、性差の否定に向かっています。ジェンダー・フリーです。
1月の2017~18秋冬の男性コレクションのコンセプトは”Ambiguity(ゆらぎ、あいまい)”です。ストリートカジュアルとヘビーデューティのミックス、そしてアスリートとカジュアルの「アスレジャー」です。
スーツにより、出自や身分に煩わされることなく、ビジネスができるようになりました。自由と平等です。そしてスーツのルールの中の細部で、人々は経済的文化的背景を演出しました。個性です。ゆらぎはスーツというルールすらも破壊するのでしょうか。それともルールの中のゆらぎに留まるのでしょうか。
(以上は、新連載の「NIKKEI THE STYLE」 3/5, 3/12,3/19,4/2,4/16を参考にしたものです)