「自動運転で、愛は死ぬ。」

クリエーティブ・ビジネス塾15「自動運転」(2017.4.10)塾長・大沢達男

「自動運転で愛は死ぬ?」

1、自動車の自由と自動運転車の不自由。
自動車(Car, Automobile)は、ダイムラーとベンツにより1885年に発明されました。その発明は米国に伝わり、1908年のT型フォードの開発で大量生産され、だれもが持てるクルマになり、世界的な自動車の時代になります。
自動車は列車による大量輸送と違います。ひとりで、好きな時間に、好きな場所に、好きなルートで、移動できるものでした。自動車の楽しみは、行く場所がないから、目的がないか、好きな音楽を選んで、ゆっくりと、あるいは猛スピードで、道路を駆け巡ることでした。クルマの魅力が最大に発揮されたのは、デートの道具になったときでした。クルマは愛を生み愛を育てました。愛と自由とはクルマに乗ることでした。
自動運転の自動運転車は、autonomous car, robot car, unmanned ground vehicle, driverless car, self-driving car などと、呼ばれます。自動運転はクルマに乗る楽しみを奪います。
2、なぜ自動運転が必要か。
自動運転の第1の目的は、衝突しないクルマ、事故を起こさないクルマを作ることです。自動運転が実現すれば、交通事故は大幅に減少します。さらには交通渋滞もなくなります。
第2の目的は、運送業界のドライバー不足を補います。深夜の高速道路を走る大型輸送車は無人運転になります。
第3の目的は高齢者、障害者、子どもだれもが運転(利用)できるクルマを作ることです。過疎地では無人タクシーや無人バスが走るようになります。
さらになる目的として、ドライバーが運転から解放されて何ができるか、という付加価値の研究、そしてクルマを動かすだけでなくエコシステム(生態系)におけるモビリティ(移動手段)の革新ととらえる研究、が議論されています(「自動運転の未来と課題 上」鎌田実東京大学教授 日経3/8)。
自動運転の開発で先頭を走っているのは米国です。
まずグーグルです。自動運転車開発プロジェクトは「ウェイモ」と呼ばれます。完全な自動運転の走行実験を200万マイル(3200万キロ)しています。2016年の米カリフォルニア洲の1年の走行実験では、テストドライバーのハンドル操作が必要だったのは走行距離5127マイル(8200キロ)ごとに、1回でした。
つぎはテスラです。テスラは自動運転に必要な道路情報収集を2億マイル以上集めています。テスラの試験車は年間137マイル走行し、3マイルに1回自動運転モードが解除されてという実験結果を残しています。自動運転の実験結果は、まだまだ完璧にはほど遠い、といったところです(日経4/3、4/16)。
ちなみにテスラは株式時価総額で先頃、フォード・モーターを抜いた自動車業界のニューウェーブです(日経4/5)。テスラはEV(電気自動車)で世界の先頭を走るだけでなく、宇宙開発でもスペースXのロケット再利用実験の成功で世界の注目を集めています(日経4/1)。CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスクは、1機100億円のロケット打ち上げ費用を1億円に下げる構想を打ち出しています(日経4/12)。
自動運転で、グーグルとテスラの続くのは米アップルです。アップルは秘密主義を貫いてきました。しかしここにきてカリフォルニア洲の自動運転車走行実験の許可を得たことを発表、そして自動運転の論文公表などオープンな開発体制をとるようになりました(日経4/16)。いよいよ真打ちの登場で、自動運転開発のスピードは加速します。
3、愛の死
自動運転車には、問題があります。まず交通法規の改定、そして交通事故が起きた場合の法的な責任の問題です。さらには犯罪やテロの悪用される可能性もあります。
それ以上に重大な問題をフィナンシャルタイムスのコラムが皮肉っぽく提起しています(日経4/3)。
ハンドルを握らなくてよくなればアルコールや薬物に走る人が増えるかもしれない。米国のアルコール中毒者死(2014)は自動車事故死の3倍である(ハッハハ!あなた、そんなにお酒が飲みたいの?)。
さらなる問題は、運転しなくなり運動能力が衰え、ある日自分に運転する力がないことに気がつくかもしれない。そんなことに気がつきたくない(ウーム?それって、あなたの老化の問題じゃないの?)。
それより大きな問題を提起します。自動運転のクルマでデートなんてあり得るのでしょうか。自動運転でモーテルに直行!そんなバカな。それでは愛は死にます。