クリエーティブ・ビジネス塾20「皇室」(2017.5.15)塾長・大沢達男
「天皇陛下は、来年(2018年)に退位され、『平成』は終わります」
1、退位
「次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じています」。天皇陛下は2016年のビデオメッセージで退位の意向を強くにじませる表明をなされました(日経4/22)。
それを受けて政府は、天皇陛下の退位に関する政府の有識者会議(座長・今井敬経団連名誉会長)開き検討を続け、4月21日最終報告をまとめ、安倍晋三首相に提出しました。
2、上皇
有識者会議の最終報告のポイントは、以下の通りです。
1)退位した天皇は「上皇(じょうこう)」、きさきは「上皇后(じょうこうごう)」と呼ぶ。
2)今上陛下が退位され、皇太子徳仁親王殿下が新たな天皇に即位されると、文仁親王殿下が皇位継承順位第一位の親族となる。文仁親王殿下は天皇の子ではく、天皇の弟宮であるから、皇太子ではなく「皇嗣(こうし)」と呼ぶ。「皇嗣秋篠宮殿下」、「秋篠宮皇嗣殿下」、「皇嗣殿下」とお呼びする。
3)皇族数の減少に対する対策について速やかに検討を行うことが必要である。
日経新聞は、特例法案の成立が2017年5月、退位の時期を2018年中、と報道しています。
有識者会議では、鋭い対立がありました。保守層の「反」象徴天皇です。戦前のような国家の基軸としての神格化された天皇なのか、それとも国民に寄り添い人間的な表情を見せる、国と国民統合の象徴としての天皇なのか。日経はその対立を書きました(日経4/22、以下のヒアリングは日経 2016.12.1 )。
○渡部昇一(上智大名誉教授)「天皇の第一の仕事は国のため、国民のためにお祈りをすること。特例法というインチキなものを作ってはいけない」
○桜井よしこ(ジャーナリスト)「日本文明の粋である祭祀(さいし)を過小評価してはいけない。天皇は何をなさらずともいてくださるだけでありがたい。譲位には賛成しかねる」
○八木秀次(麗沢大教授)「退位には反対。国民統合の二元化を招き、新天皇から国民の心が離れ、敬愛の対象たり得なくなる可能性がある」
○古川隆久(日大教授)「生前の退位は皇位継承の安定性確保のためには避けるべきだ。しかし国民の意思として認めるなら、否定すべき理由はない」
×保坂正康(ノンフィクション作家)「天皇には私たちが享受している市民的自由が一切ない。基本的には何らかの条件の下で退位が容認されるべきだ」
×岩井克己(ジャーナリスト)「天皇の終身在位は残酷な制度。譲位による弊害は、国民主権下でコンパクトな象徴天皇制が定着し、高度に情報化が進んだ現代では考えにくい」
×所功(京産大名誉教授)「陛下の問題提起を真摯に受け止め、対応すべきだ。象徴天皇の役割は、国家と国民のために務めを果たすことだ」
×園部逸夫(元最高裁判事)「天皇がただ存在するというだけでは、多くの国民の賛同を得ることことはできず、天皇制が長く続くためには国民や社会の期待に沿うあり方であることが必要だ」
3、皇室
△百地章(国士舘大大学院客員教授)「譲位制度には問題点もあるが、終身制を維持しつつ、高齢化社会の到来に対応すべく、特例法を制定すればよい」
有識者会議の座長代理を務めたのは御厨貴(みくりやたかし)東大名誉教授です。以上の対立をよくぞ一本にまとめたものです。結論的には百地教授のような意見に集約されました。天皇の譲位や生前退位はできない、しかしながら今回に限り、退位を特例法で認めるというものです。
なぜ天皇が必要なのでしょうか。天皇は日本という国が成り立っている幹のひとつだからです。天皇が日本という国の本質だからです。天皇は諸外国の王朝とは違います。万葉集も源氏物語も古今集も新古今集も天皇なくして成立しません。日本語の根幹には天皇があり、天皇は日本文化そのものです。
天皇は「市民的自由」や「残酷な制度」とは無縁です。四季の移り変わり、田植えがあり、稲刈りがあり、祭りがある。日本の一年は、天皇の祈りともに、進んでいきます。天皇は日本という国柄の本質です。
*渡部昇一先生(1930~2017)が4月17日に亡くなりました。学恩に感謝し、ご冥福をお祈りします。