THE TED TIMES 2025-38「東條英機」 10/01 編集長 大沢達男
『昭和16年 夏の敗戦』(猪瀬直樹 中公文庫)の「東條英機」は注目に値します。
1、東條英機
戦前の陸軍には皇道派と統制派がありましが、東條英機は永田鉄山が率いる統制派に属していました。
ところが昭和10年に、兄貴分の永田鉄山が皇道派により斬殺されてしまい、後ろ盾を失った東條英機は中央を離れ、満洲の関東軍憲兵隊司令官になります。
歴史は動きます。
昭和11年の2.26事件で皇道派は消え、無傷の東條英機が浮上し、昭和13年に内地に戻ります。
昭和13年近衛内閣の陸相に板垣征四郎がなったときに次官になります。
こうして無名の東條が派閥争い間隙をぬいつつ前面に押し出され、昭和15年第2次、第3次近衛内閣で陸軍大臣になります。
昭和16年10月18日の総理大臣への指名は東條英機にとっても晴天の霹靂(へきれき)でした。
近衛内閣のあとは皇族内閣が噂されていましが、大方の予想裏切って、東條英機が任命されました。
理由は1)東條なら陸軍を押さえられる、2)東條は天皇の意思を忖度する和平派、3)「真面目で実直な男」でだからです。
そして東條は、昭和16年8月27日総力戦研究所での模擬内閣のプレゼンテーションで、日米開戦をすれば「日本必敗」の結論を知っていました。
当時東條は陸軍大臣で、だれよりも熱心に平均年齢33歳の若者たち意見を、メモを取りながら聞いていました。
10月18日に内閣を組織してから開戦まで50余日、東條英機内閣は独裁とは言い難いものでした。
2、旧憲法の欠陥
なぜ戦争が起きたのか。なぜ大日本帝国は戦争への道を歩んだのか。
それは旧憲法の欠陥から生じたものです(前掲書 p.101)。
大日本帝国憲法では、統帥権は天皇の大権で、政府が関与できないものでした。
しかしその大権を行使したのは天皇自身ではなく統帥部でした。
統帥部は政府とは別個に(勝手に)作戦を発動できました。
政府は統帥部に全力で抵抗しましたが、制度のカベを超えることはできませんでした。
これが軍部の独走といわれるものの正体で、東條英機の独裁ではありません。
3、アメリカ
アメリカは昭和16年6月21日から禁輸を実施し一滴の石油も日本には入らないようにしました(歴史年表では8月1日)。
持たざる国日本と持てる国アメリカ。
アメリカの対日禁輸は日本の窮地を知り尽くしたうえで計画的に実施されていました。
昭和16年11月15日外交官来栖三郎・野村吉三郎大使がハル国務長官と会談します。
ルーズベルト大統領はハル長官に言います。
「日本をあやす時期は終わった。(中略)日本が先に攻撃を仕掛けてくるようにさせるにはどういたらいいかということだ」(p.109)。
11月26日。「ハル・ノート」がハル国務長官から野村大使に手渡されます。「満洲を含む中国、仏印から日本軍及び警察の全面撤退」。
12月1日の御前会議で開戦が決定されます。
4、高村光太郎
「記憶せよ、十二月八日」
記憶せよ、十二月八日 この日世界の歴史あらたまる。アングロサクソンの主権、この日東亜の陸と海とに否定さる。
否定するものは我等ジャパン、眇たる東海の国にして、また神の国たる日本なり。そを治しろしめたまふ秋津国神なり。
世界の富を壟断(ろうだん=独占)するもの、強豪米英一族の力、われらの国において否定さる。われらの否定は義による。東亜を東亜にかへせというのみ。
彼らの搾取に隣邦ことごとく痩せたり。われらまさに其の爪牙(そうが)をくだかんとす。
われら自らの力を養いてひとたび起つ。老若男女みな兵なり。大敵非をさとるに至るまでわれらは戦う。
世界の歴史を両断する。十二月八日を記憶せよ。
(12月10日執筆)
5、東京裁判
1)対英米蘭戦争は、これらの国々の挑発が原因で、わが国は自存自衛のためにやむをえず開始されたものである。
2)敗戦の責任は総理大臣にある。
3)日本に「犯罪的軍閥」というものはない。明治時代とは違い政党政治の発達にともない軍閥、藩閥は姿を消している。
4)政府は、統帥に関して抑制・指導をできず、作戦用兵に触れることはできなかった。日本には統帥を抑制する機関がなかった。
猪瀬直樹は、国務と統帥の二元化が日米開戦を阻止できなかった、一方で米英蘭の挑発が開戦を惹起した、とまとめています。
東條英機は熱海市伊豆山のある興亜観音像のそばの「七士之碑」に広田弘毅、板垣征四郎、松井石根、土肥原賢二、木村兵太郎、武藤章とともに眠っています。
「七士之碑」は忘れ去られています。
なぜなら、あの戦争は「軍部の独走」で、国民は被害者で、悪いのは一握りの軍国主義者という図式が出来上がってしまっているからです。
6、アングロサクソン
1)軍部の独走
猪瀬直樹の『昭和16年 夏の敗戦』をもとにしたNHKドラマ『シュミレーション~昭和16年 夏の敗戦~』が2025年8月16~17日に放送されました。
ドラマのなかで総力戦研究所飯村穣所長をモデルにした、「板倉大道」役が自由な議論を封じた卑劣漢として描かれている、と息子の飯村豊さんがNHKに抗議しています(「終戦80年 NHKスペシャルは歴史の冒涜だ」 飯村豊 『文藝春秋』2025.10)。
飯村所長を軍国主義者にする。NHK(戦後NHKとGHQは同じビルにあった)がやりそうなことです。「軍部の独走」は現在でも再生産されています。
2)靖国神社参拝
昭和28年の衆議院本会議で「戦争犯罪による受刑者の赦免などに関する決議」が全会一致で可決されています。
戦犯は公務死になり、恩給も支給され、靖国神社に合祀されています。これは平成17年10月衆議院での野田佳彦の指摘です。
靖国参拝を問題にするマスコミはGHQの機関紙からいまだに卒業できていません。
3)天皇権力の建前と本音
「天皇は神聖にして侵すべからず」は建前(顕教)で、天皇機関説」(主権は国家にあり、天皇の権力は限定されている)が本音(密教)でした(『昭和100年史』 p.62~3 佐藤優 片山杜秀 小学館新書)。
この論理から言えば、軍部はこの天皇権力の建前と本音をうまく使い、政府が統帥をコントロールできないようにしました。
4)アングロサクソン
『米英東亜侵略史』(大川周明 1942年)はアングロサクソンの残虐な本質を明らかにしています。
米軍は東京大空襲をし、広島・長崎の原爆を投下しました。そしていまだに原爆投下責任を認めていません。
5)『昭和100年史』( 小学館新書)
日本を代表する二人の知識人、佐藤優と片山杜秀が書いたこの本の結論は「アメリカと戦争をしない」。
なぜならアメリカは戦争になると何をするかわからないから・・・高村光太郎が言う通りです。
以上。