THE TED TIMES 2025-41「BLACK BAG」 10/22 編集長 大沢達男
映画”BLACK BAG”は今年のナンバーワン候補のひとつです。
1、”BLACK BAG”
きのうまで映画の悪口を言い続けて、憂鬱な日々を過ごしてきましたが、夜明けがきました。
ことしのナンバーワン候補の映画に出会えました。
”BLACK BAG”(スティーブン・ソダバーグ監督 2025 米国)です。
「BLACK BAG」とは秘密捜査です。
映画は複雑ですが、その構造はシンプルです。
舞台はイギリスの3大スパイ組織のひとつNCSC(国家サイバーセキュリティセンター)です(因みに「007」ジェームス・ボンドはそのとなりの「M16」の所属)。
そこから世界を破滅に導く不正プログラム「セヴェルス」が盗まれます。
犯人はNCSC内部にいる、5人の容疑者がいる、犯人を特定せよ、この命令が映画の主人公である諜報員のジョージに下されます。
もちろん容疑者はジョージの同僚、容疑者のなかに妻のキャスリンもいます。
映画はいきなりクライマックスを迎えます。
ジョージは5人(妻プラス4人)を自宅の食事会に招きます。
料理にはみんなの口を軽くするための薬物が混入されます。
圧巻の食事会が始まります。
かつてのシネマ・ヴェリテ(真実の映画)のドキュメンタリーのような、あるいはヌーヴェル・バーグの映画にあった「告白ごっこ」のような、人間の仮面をはぐ強烈なセリフが飛び出します。
「私は、セックスで絶対に彼女より先にイカないようにします。後からフィニッシュすることを誓います」
「あなたは(女性に向かって)なぜジジイが好きなの」
「男は何にでも突っ込みたがる」
また以下は映画の後半のウソ発見機のシーンです。
「ハーイ、括約筋(かつやくきん=膣の筋肉))を締めて」
「この1ヶ月何人の男性とセックスをしましたか」
「あなたは(女性に向けて)今朝オナニーをしてきましたか。イエスかノーか」
オイオイ・・・裏切り者の犯人探しと言えども、そこまでやるか。
観ている方はハラハラドキドキしてきます。
だれか自殺するぜ、いらぬ心配で緊張させられます。
しかしこれが映画、これがドラマです。
今まで私たちはアクションやヴァイオレンスやCGの映画に慣らされてきました。
”BLACK BAG”は人間ドラマです、テーブルに座った人間のセリフがアクション以上に観客を恐怖におとしいれます。
2、犯人
捜査を命じられたジョージの趣味はバス釣りと料理、ともに孤独な人間の趣味と言われるものです。
容疑者5人。
第1は、妻のキャスリン。彼女も有能な諜報員です。ジョージとキャスリンは愛し合っています。
しかしキャスリンは夫に内緒(もちろんブラック・バッグ)で外国に出かけます。
第2は、諜報員のフレディ。飲酒で私生活が乱れています。ガールフレンドがいます。
そして容疑者のひとり情報分析官のクラリスと関係があります。
第3は、諜報員のジェームス。仕事人間、自分を英雄だとと思っています。
容疑者のひとり精神科医のゾーイと恋仲ですが、フラれます。
第4は、情報分析官のクラリス。フレディと恋仲にあります。
映画の中盤でジョージの依頼で任務違反をし、ジョージに危険な協力をします。
第5は、精神分析医のゾーイ。クライアント(患者)は諜報員です。
冷淡で人を操る洞察力があると言われています。ジョーイと付き合っていました。
以上が容疑者の5人、先ほどの際どい台詞はみな5人の口から出たものです。
さて誰が犯人でしょうか。
3、ソダーバーグ監督
先述した通りに映画は構成が優れています。
冒頭でプログラム盗難の犯人探しテーマが提示され、その後の1週間の犯人探しを描いたものです。
まず特筆すべきは、カメラワーク。
映画の冒頭、主人公のジョージを追跡する映像は3分になんなんとするワンカットです。
ソダーバーグ監督自身が手持ちのカメラで追っています。
次に編集。
編集もテンポがいい、しかもMA(映像と音楽の合成)がいい、これもソダーバーグ監督自身です。
アメリカ映画では監督の名を、ユニオンとの関係で、撮影者や編集者に書くことが許されません。
で、監督は撮影に父親、編集に母親の名を使っています(笑)。
つまりソダーバーグ監督はアーティザンでアーティストという訳です。
”BLACK BAG”を超える作品が現れるでしょうか。ことしのナンバーワンは早くも決まりのようです。
人間は、ヒトの脳、ウマの脳、ワニの脳で構成されています。
ヒトの脳を使って、人間存在を根源的にウマの脳・ワニの脳までさかのぼり問題にした映画を、芸術と呼びます。
しかもそれをコンパクトなエンターテイメントにした映画を傑作といいます。