TED TIMES 2020-25「ゴッドファーザー1」 5/10 編集長 大沢達男
映画『ゴッドファーザー』は、歴史に残るか、映画の芸術か。
1、なぜ、『ゴッドファーザー』か。
映画『ゴッドファーザー』は、全体で9時間5分の超大作で、フランシス・フォード・コッポラ監督の代表作です。第1作目1972年(175分)、第2作PART II1974年(200分)、第3作目PART III1990年(170分)、第1作目は1972年ですから50年前の作品です。
今更、あれこれ言っても仕方がないのですが、『ゴッドファーザー』は、世界で一番古い小説の『源氏物語』や、文学史上の最高傑作の『カラマーゾフの兄弟』や、世界の歴史に影響を与えた経済学の『資本論』のような、偉大な仕事なのでしょうか。一度しっかりと目を通して、はっきりと見極めておくのも、無駄ではないと思います。
1)まず、『ゴッドファーザー』が、映画史に残る作品なのか。それを検証します。
2)次に、コッポラ監督は、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカスと並んで、現代アメリカ映画の3大監督といわれます。なぜコッポラなのか、それを探ります。
3)そして、『ゴッドファーザー』は映画を発明しているかの難問に挑戦します。エイゼンシュタインの『戦艦ポチョムキン号』(1925年)、溝口健二の『雨月物語』(1953年)あるいはゴダールの『勝手にしやがれ』(1960年)は、明らかに映画を発明しています。コッポラは映画史を変えた監督か。それを判定します。
全くのわがままですが、ひとつの方法論として、気に入ったプロットを取り上げ、その魅力を味わい、そして映画全体の魅力を論じたいと思います。
2、私の好きなプロット
1)妹コニーの結婚式(Part I)
映画は、ドン・コルネオールことビト・コルネオール(マーロン・ブランド)の娘コニー(タリア・シャイア)の結婚式パーティーから始まります。コニーは、映画の主人公になるマイケル・コルネオール(アル・パシーノ)の妹です。マイケルは海軍の軍服姿でパーティーに出席しています。
100人近い来客の、陽の当たる庭先での、飲めや歌えの大パーティーです。ステージに立って来客が調子外れの歌を歌い、みんなが笑います。10人に近いバンドの演奏に合わせて、ドン・コルネオールもワルツを踊ります。そしてゲストのシンガーがやってきます。フランク・シナトラがモデルといわれるジョニー・フォンテーン(アル・マルティーノ)です。女性たちはキャーキャーと叫び大騒ぎ、花嫁も「ジョニー!ジョニー!」と新郎そっちのけで、歓待します。
ジョニーが甘いバラッドを歌います。♫I have but one heart♫ みんなうっとり。素晴らしい午後です。ジョニーもかっこいいのですが、ジョニーに熱狂する、観客の表情もワンカットワンカット、丁寧に撮影され編集されています。映画作りの基本があります。お手本です。
しかしジョニーは厄介な相談をドン・コルネオールを持ちかけていました。「次の映画の主役から外された。どうにか元の戻して欲しい」。ステージではソプラノのアリアが響いています。ドンは手荒なことをしてジョニーの願いを叶えてあげます。
2)マイケルの結婚式(Part I)
マフィアとの抗争に勝利した後、マイケルはシチリア・イタリアに、ほとぼりが冷めるまで、身を隠します。そしてその故郷で恋に落ち結婚します。
その結婚式が素晴らしい。結婚の契りを交わした後、二人は町までお披露目のパレードをします。管楽器を主体にした10人程度の音楽隊が二人を先導します。音楽はウエディング・マーチ風。バンドのメンバーは全員、白の上下の制服、お洒落。それが丘を越え、畑をよぎり、青空の下を進行します。イタリア人の監督でなければ、こんなシーンを撮りません。思いつきもしません。さすがです。そしてパレードが街の広場に到着すると、パーティーが始まります。結婚式とは音楽。音楽が暮らしの中にあります。しかし映画は残酷・・・。
素晴らしい結婚式、そして夢のような結婚生活の始まりの後に、コッポラ監督は悪夢を用意します。美しいイタリアの花嫁は、裏切り者によってマイケルの代わりに自動車もろとも爆破、されてしまいます。