16億円で落札された村上隆のフィギュア。

コンテンツ・ビジネス塾「村上隆」(2008-19) 5/20塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

5/2発売の米誌タイムが、「世界で最も影響力のある100人」を発表。その中の日本人2人、京都大の山中伸弥教授(45)と現代美術作家の村上隆氏(46)について2週連続で学習します。
1、東京ドーム。
それは2年前の東京ドーム、アメリカの人気歌手マドンナのライブのときでした。ステージに近いアリーナ席はなんと5万円。そこは、アメリカ人、中国人、韓国人などの外国人と日本のセレブリティのための席でした。開演前のその会場で、映画スターでも歌手でもタレントでもない、ひとりのメガネをかけたあごひげの男が、外国人からつぎつぎとツーショットと握手を求められていました。彼が「世界に最も影響力のある日本人」、現代美術作家・村上隆でした。アニメをモチーフにした作品を1億円近い価格で売る人気のアーティスト、伝統不変のルイ・ヴィトンモノグラム(文字を図案化したもの)をカラー化した伝説のアーティストです。
2、スーパーフラット
村上隆の代表作。その1は、DOB君。ミッキーマウスに似たアニメのキャラクターの顔です。その2は、Miss KOKOです。これは超ボインでエプロンをしたミニスカートの等身大のフィギュア。その3は、ロンサムカウボーイ。ペニスからスペルマ(精液)が飛び出し、頭上で渦を描いているフィギュア(5/14、NYで16億円で落札されました)。その4は、お花です。お花の中に笑顔があります。
村上はなぜ外国で人気があるのか。それには理由があります。それが村上の戦略だからです。
1)芸術の本場で認められる。2)欧米の権威で日本人の好みに合わせた作品を逆輸入。3)再び、本場で自分の持ち味で勝負する(「芸術起業論」村上隆 幻冬社)。
こんな戦略的なアーティストは初めてです。超ボインとスペルマと聞くと、エロス(本能)ばかりの人のようですが、実はロゴス(論理)のほうも相当の人なのです。まず、東京芸大日本画科で初の博士号を取得。卒業制作は、プラモデルのTAMIYAの兵隊を使った作品。そしていちばんの注目しなければならないのは、村上が作った「スーパーフラット」というコンセプトです。
1)スーパーフラットは、日本画の平面性とアニメの2次元的表現は同種あることに注目します。
2)スーパーフラットは、ハイとロー・アート、メインとサブ・カルチャー、アートとエンターテイメントを上下関係ではなく、同じ次元の表現としてとらえます。
3)スーパーフラットは、階級、カーストがない日本文化そのものです。
4)スーパーフラットは、キュビズム、シュールリアリズムのようなアートのムーブメントになります。
なんだか胸がすっとしませんか。芸術コンプレックスがなくなります。コマーシャルだとか、純粋だとか、美大出身だとか、パリに留学だとか、そんなこと関係ないのです。オリジナルであれば、自分のリアルであれば、みんな表現なんです。
3、GEISAI(芸祭)。
オリジナルとリアルで「日本に新しいアートマーケットを」。だれもが参加できる現代美術の展覧会「GEISAI MUSEUM #2」が、5/11東京ビッグサイトで開かれました。開催のチアマン(主席)は村上隆さん。参加したのは600人以上の作家。2畳ほどの敷地に作品を展示し、われこそが天才鬼才と、その作品を競ったのです。審査員によって1~3位までが選考されます。人気投票でのランキングもされます。みんながあすのスターを夢見て、自分の将来を自らの作品に賭けました。ほんと、モノを作るのつらいです。自分の全身全霊をかけた作品が認められない、ということはボクってなに、ということになってしまうから。受賞したひとりが「チャンスをくれた村上さんに感謝します」と感激のスピーチ、この涙は真実。そしてまた、どうして私を選んでくなかったの、抗議の涙もまた真実です。
ゲイサイのエンディングは、アイドルグループAKB48(エーケービーフォーティーエイト)Aチーム平均年令約16才のパフォーマンス。みんなボインでミニスカです。歌は、♪なんてステキな世界に生まれたんだろう♪。ステージの前に陣取ったオタクたちも、作品が評価された人も、無視された人も、そして私たち野次馬も、みんな萌える乙女たちの歌に感動していました。村上さんは若手の育成にも熱心です。いまや世界の村上は日本の村上です。村上さんありがとう。