バイオ燃料の苦悩。

コンテンツ・ビジネス塾「バイオ燃料」(2008-20) 5/20塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、カーボンニュートラル
ガソリンに代わる自動車の燃料として、バイオ燃料が話題になっています。なぜか。まず原料が植物、限りある石油ではないことです。原油価格の上下に影響されません。もうひとつは、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を増やさないからです。バイオ燃料はサトウキビやトウモロコシの植物から作られます。燃焼されるときに排出される二酸化炭素は、もともと大気中の二酸化炭素を植物が光合成のために吸収したものです。だから差し引きゼロ、バイオ燃料で走る自動車は大気中の二酸化炭素を増やさない計算になるのです。これが「カーボンニュートラル」です。とはいえバイオ燃料の世界の生産量は、まだ自動車輸送燃料全体の1%程度。米国、欧州が導入に熱心で、日本は採用が遅れ、07年から本格的に導入されています。京都議定書の達成計画(1990年比で2008~
2012年までに温室効果ガスを6%削減)にバイオ燃料により、近づくことができるのです。
いいことずくめのようなバイオ燃料に大きな問題が起こってきています。バイオ燃料の原料になるサトウキビ、トウモロコシ、小麦などの穀物価格が高騰しているからです。トウモロコシの最大の生産国である米国では、ここ2~3年で価格が2倍以上にはね上がっています。
2、食糧か。環境か。
あなたはお茶わんやお皿の上のごはんを、一粒残さずに食べていますか。あなたは日本の前の世代が残した美風を受け継いでいますか。豊かな時代は終わります。物を粗末にできなくなります。
シカゴの商品取引所でコメ先物相場が最高値に迫ってきています。原因はミャンマーを襲ったサイクロンです。水没した水田でミャンマーはコメ生産の2/3を失ってしまったのです。コメ騒動が世界をゆらしかねないのです。トウモロコシ、小麦などの穀物の価格も上昇しています。サブプライム・ローンから逃げ出した投資マネーが穀物市場になだれ込み、高騰に拍車をかけています。さらに人口が増加する新興国の消費拡大も需要をふくらませています。
そんななかでバイオ燃料バイオエタノール)も、穀物市場の高騰を招いた犯人として、逆風を浴びています。さらにバイオ燃料は、理論上、二酸化炭素排出はゼロのはずですが、プラント建設、製品輸送などを考慮すると、20~40%しか削減できません。さらには費用対効果、つまり単位当たりの二酸化炭素を減らすための費用は、経済的に見合うレベルに達していません。そしてサトウキビ耕作地を拡大したブラジルでは生態系破壊が深刻になってきています。つまりバイオ燃料をかんたんに優等生と言えなくなってきているのです。
コメ輸入国のフィリピンではコメが高騰し、マニラのある家庭では1日2食に切り詰めています。西アフリカのセネガルでは学校給食の援助が減り、子どもたちが空腹をかかえています。食料を自分で生産できない都市の貧困層が生活におびえています。まず、「フードクライシス(食糧危機)」の問題があり、そして「食糧か、環境か」の問題があるのです。
3、自動車の未来。
希望はあります。まずバイオ燃料の技術革新です。サトウキビやトウモロコシの資源作物ではなく、食品廃棄物などの廃棄系や林産資源・稲わらなどの未利用系でバイオ燃料を作る新技術です。
さらに自動車の動力源も変わります。エンジンとモーターを併用した「ハイブリッド車」、燃料噴射システムを使った「クリーンディーゼル車」、家庭用電源から充電できる「プラグインハイブリッド」、水素を使った「燃料電池自動車」、そしてガソリン、軽油バイオエタノールを混入した「バイオ燃料」です。バイオ燃料と自動車の動力源の技術革新。日本はどちらでもリーダーシップをとるに違いありません。でもいちばん重要なことは「哲学」です。理屈を言うのではなく、質素に暮らすライフスタイルのことです。「疏食を飯い水を飲み、肱を曲げてこれを枕とす、楽しみ亦た其の中に在り(そしをくらいみずをのみ、ひじをまげてこれをまくらとす、たのしみまたそのなかにあり)」。粗末な食事をとり水を飲み、ひじを枕で眠る、人生の楽しさはそんなところにこそ発見できる(「論語孔子)。
*以上は、「激変!自動車燃料」(ビジネスアイ4/21~4/26)、「フードクライシス」(日経5/13~5/17)を参考にしました。