クリエーティブ・ビジネス塾51「坂本龍一」(2017.12.18)塾長・大沢達男
やっぱり気になる、坂本龍一。
1、訂正
2017.5.1のクリエーティブ・ビジネス塾18「音楽」で、とんでもない間違いをしてしまいました。お詫びして訂正しています。間違いは以下の部分です。
<「Ryuichi Sakamoto/asnyc 坂本龍一/設置音楽展」(ワタリウム美術館4/4~5/28)に行ってきました。
展覧会はワタリウム美術館の地下1Fから4Fで開かれていました。といっても各フロアーのスペースはわずか。タイトルは「async」。何と発音するのか、何を意味するのか、どこにも解説はありませんでした。"asylum"は避難所、”nc"はなんとなく”nyc=new york city"を連想させます。”async"とはニューヨークの隠れ家なのでしょうか。
音楽は「音楽」ではありませんでした。メロディ、ハーモニー、リズムがありません。波の音のように押し寄せる「雑音」の大きな低音のパウンドケーキがあり、その上「弦」の不規則なメロディのホイップクリームが乗せられ、さらにその上に「鈴の音」のようなサクランボが散りばめられているような構成です。>
音楽の描写はいいのですが、間違いはタイトルの”async"の解釈です。"async"とは”asynchronous"。「非同期」、「非同時性」という意味です。そして坂本龍一の意図する所もはっきりとわかりました。言い訳するようですが、ワタリウムの開催者のほとんどがその意味を分かってなかった、ではないでしょうか。
2、”async”
間違いがわかったのは、『Ryuichi Sakamoto CODA 坂本龍一の音楽と思索の旅を捉えたドキュメンタリー』(角川シネマ有楽町)を見たからです。そこに新作映画『async』(2018年1月27日公開)のビラがあり、「async 非同期的な音楽を作りたい」という解説を見つけ、ホッとしました。なーんだ!簡単だ。そして坂本龍一の狙いは、映画『CODA』と見ることで完璧になりました。
非同期、非同時が正確に何を意味するのは依然としてはっきりしませんが、坂本龍一は芸術をやろうとしています。
芸術とは何か。音楽を発明することです。リズム、メロディ、ハーモニーを壊すのです。絵画の世界での村上隆はアニメのフィギュア『ロンサムカーボーイ』を作ることで、西洋の伝統の彫刻であるミケランジェロやロダンを否定し、彫刻を発明しました。これこそが芸術で、西欧社会の美術愛好家は村上隆を評価します。
坂本はバッハを否定し、そしてまた自らが生まれ変わりであると信じているドビッシーすらも否定して、音楽発明の旅に出ています。
3、『CODA』
映画『CODA』は面白い。坂本龍一のすべてがあります。
はじめ坂本龍一はスタジオミュージシャンとしてアルバイトをしていました。勉強のできない青山高校出身のぼくが、勉強ができる新宿高校出身の坂本龍一に出会ったのは、その頃でした。築地・音響スタジオ。即興で作り、即興で直す坂本は、音楽を作り上げる非凡さを示しました。スタジオにいたスタッフは坂本の奇跡を目撃しました。
つぎに坂本はYMO(1978年 イエロー・マジック・オーケストラ)のブレイクで日本の誰もが注目するようになります。武道館でのYMOのライブには、おませな少年たちがあつまり、「サカモト〜!」と変声期の声で応援していました。
そして坂本は映画『戦場のメリークリスマス』(1983年大島渚監督)への出演と音楽で世界的な存在になります。
さらに坂本は映画『ラストエンペラー』(1987年ベルナルド・ベルトリッチ)で日本人初のアカデミー作曲賞、『シェリタリングスカイ』(199O年ベルナルド・ベルトリッチ)でゴールデングローブ作曲賞(1991年)に輝き、世界を代表する作曲家になります。
面白いエピソードが紹介されています。『シェリタリングスカイ』の音楽取りのとき、録音間近になって、監督のベルトリッチがイントロの音楽にノーを突きつけます。あり得ない!。しかし監督はほかの高名な作曲家の名をあげ、彼はやってくれたぜサカモトはできないのか、と取引に出ます。では30分待ってくれ、そして作曲にチャレンジします。
音響スタジオで坂本の鮮やかな仕事振りを見ていたぼくは、このシーンに感動しました。そうさ、坂本ならできる!
現在の坂本龍一は、エコ、ロハス、マクロビオティック、ベジタリアン、環境問題、平和問題、そして個人的には「ガン」。社会活動に熱心な偉大な芸術家の道を歩んでいます。
映画には、東日本大震災で被害を受けたピアノが登場します。壊れている、調律されていない、調子はずれのピアノを坂本が弾きます。”async"。音楽になっていない音が連なります。津波によりピアノは狂い、非同期になっています。しかし坂本は熱心に弾きます。その音からは、震災、津波、亡くなった人、生き延びた人、破壊されビル、流された家、蘇る自然、変わらぬ空と海の色、いろいろな音が聞こえてきます。
* * *
ある日ぼくは、坂本龍一のデビューに関わったCM音楽プロデューサーと、坂本のことを話しました。
彼「あいつ、メロディー書けねーんだよ!」、ぼく「そう歌曲はダメだ。器楽曲だね」、
ぼく「それにロックじゃない」、彼「リズム&ブルースのグルーブがねえんだよ」。まあ、負け犬の遠吠えです。