TED TIMES 2020-10 「Sapiens-まとめ」 3/2 編集長 大沢達男
西欧人による、初めての「一神教」と「白人批判」。ハラリは「快男児」。
1、白人
ジョン・フォード監督の最高傑作と言われるジョン・ウェイン主演の映画『捜索者』には、乗馬したインディアン(ネイティブ・アメリカン)が颯爽と登場します。インディアンは乗馬の名手であるかのように・・・。
しかしこれこそが、歴史の偽り、白人の罪です。1492年(コロンブスの米大陸「発見」)以前に、アメリカ大陸に「馬」は存在しませんでした。白人によって持ち込まれたものです。悲しむべき事実もあります。白人がやってきて、北米大陸は大型哺乳類47属のうち34属を失っています。もちろんネイティブ・アメリカンは白人により絶滅状態になります。
同じことがオーストラリア大陸でも起こっています。1769年にジェームス・クックにより「発見」されたオーストラリアの島々は、イギリス領になります。征服者はまずこの大陸の生態系を昔の面影がないほど変えます。動物種24種うち23種を絶滅させます。そればかりか、タスマニア人は皆殺し、以後の100年でオーストラリアの先住民の人口は9割減少します。
16~19世紀に1000万人のアフリカ人が奴隷としてアメリカに連れてこられました。奴隷貿易企業はヨーロッパの証券取引所に上場され、「砂糖」を使い、「コーヒー」を飲み、「タバコ」を吸う、白人の中産階級の投資の対象にされていました。
「万人は平等に造られており、奪うことができない特定の権利を造物主によって与えれており、その権利には、生命、自由、幸福の追求が含まれれる」(アメリカ合衆国独立宣言)。しかし万人の中に、黒人、有色人種は含まれていませんでした。なぜなら、1930年代まで西欧の超一流の学者たちは、白色人種が科学的に優れている信じていました。
さらには1960年代までアメリカ政治では白人至上主義が主流のイデオロギーでした。
ハラリはイスラエルのユダヤ人ですが、西欧圏の学者がこれほどの白人批判をしたことを知りません。
2、一神教
そしてハラリの白人批判は一神教批判へと展開されます。
農業革命の結果、一神教が生まれます。まず一神教は、多神教を無知で子供じみた偶像崇拝だと馬鹿にします。次に一神教は異端者、異教徒を迫害します。キリスト教徒は1500年の間に同じキリスト教徒を何百万人も殺害しています。さらに一神教は動植物を対等のメンバーとして扱っていません。面白いのは一神教のキリスト教徒がゾロアスター教のような悪魔やサタンの二元論を信ずることです。そしてハラリは「苦しみは渇愛(欲望)から生まれる」とする仏教を評価します。
痛快は「自由主義批判」です。まずハラリは自由主義を人間至上主義の新宗派だとします。次に自由主義は、人間性、自由、人権を神聖視していると指摘します。そして平等は、一神教の信念の焼き直しに過ぎないと断じます。さらに最大の問題は、人間至上主義の自由主義と生命科学の間に広がる溝です。自由を科学は発見できない。人間の行動はホルモン、遺伝子、シナプスで決まるからです。ハラリは、「人生にはまったく何の意味もない」と、結論づけます。
3、ハラリの「勇気」
『サピエンス全史』の冒頭に帰ると、「ライオンに気を付けろ」ではなく「ライオンはわが部族の守護霊だ」という認知革命によって、サピエンスは発展してきました。想像と神話です。
国連、自由、人権・・・そしてハラリが触れてこなかった、文学、音楽、絵画、芸術があります。
ジェームス・クックによりオーストラリアの征服されようとしいた頃に、ヨーロッパではモーツアルトという作曲家が活躍していました。白人の行動は否定されても、『ピアノソナタK311』は肯定です。
同じく映画『捜索者』も、ネイティブアメリカンへの偏見とは別に、映画は財産です。
しかし、偉そうな感想よりも、大事なことがあります。私たち日本人はハラリの「勇気」に学ばなくてはいけません。まず『日本国憲法』は、アメリカ合衆国独立宣言を同じ一神教の精神によりアメリカ人によって書かれていることです。さらには戦後の占領政策と言論検閲が、白人至上主義のイデオロギーによってなされたことです。アメリカの戦時情報局員よって書かれた『菊と刀』(ルース・ベネディクト)は、人種偏見、日本人蔑視の書以外の何ものでもないことです。