ホモ・サピエンス(知恵ある人)からホモ・デウス(神の人)へ。時代は変わる。以下は、『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

TED TIMES 2020-11 「ホモ・デウスー1」 3/7 編集長 大沢達男

 

ホモ・サピエンス(知恵ある人)からホモ・デウス(神の人)へ。時代は変わる。以下は、『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の要約。

 

1、人類が新たに取り組むべきこと

飢餓と疫病と戦争から人間は解放されることはないと考えられていたが、問題は解決されつつある。

第1に、中国人は飢餓の心配をしていない。問題は飢餓より過食になっている。

第2に、黒死病天然痘、サーズ、エボラ出血熱に人類は勝った。エイズも克服した。

第3に戦争もなくなりつつある。「ジャングルの法則」(弱肉強食)は打破された。2012年の死亡者5600万人(戦争12万人、犯罪50万人、自殺者80万人、糖尿病150万人)。火薬より砂糖が危険である。

経済の基盤は物から知識に変わった。戦争で金鉱や油田は奪えるが知識は奪えない。戦争が起こりそうもない平和の時代を迎えている。人類は「ジャングルの法則」ばかりか「チェーホフの法則」(第1幕で登場した銃は第3幕で必ず発射される)も破った。1945年以来人類はミサイルを発射していない。

飢餓と疫病と戦争を克服した人類は、不死と幸福と神性を標的にするようになる。人類を神にアップグレードし、ホモ・サピエンスをホモ・デウス(DEUS=神)に変えることを目指すようになる。

第1に死。グーグルのレイ・カーツワイルは「死を解決すること」ことを使命にした子会社を設立した。グーグルのビル・マリスは「500歳まで生きることが可能」と考え、グーグル・ベンチャーズのCEOに採用され、野心的な寿命延長プロジェクトを手掛けている。「不死」ではなく「非死(アモータル)」である。

第2に幸福。人々は生産ではない、幸せを望んでいる。幸せは難しい。貧困と政情不安の開発途上国(ペルー、ハイチ、フィリピン、アルバニア)の自殺者は10万人当たり5人、豊かで平和な国(スイス、フランス、日本、ニュージーランド)では10万人当たり10人である。ジョン・スチュアート・ミルは、幸福とは快楽、苦痛からの開放とする。昇進、宝くじ、真の愛でも人は幸福になれない。

幸福にするのはたった一つ、体の中の快感だ。しかし快い味や至福のオーガズムは長続きしない。人間の生化学的作用を操作する方法がある。アメリカの子供は、ADHD(注意欠如・多動性障害)の薬物療法を受けている。アメリカの兵士は、イラクで12%、アフガニスタンで17%が、プレッシャーと苦悩の軽減のために睡眠薬抗うつ剤を使っている。また囚人も、アメリカでは半数、イタリアでは38%、イギリスでは55%が、薬物の利用や販売で罪を犯している。

人間を神にアップグレードする道は3つ。生物工学、サイボーグ工学、非有機的な生き物を創る工学。

生物は40億年の有機物の領域内から抜け出し、無機の世界に入って行く。そしてテクノロジーで人間の心が作り直されるようになると、人間の歴史は終焉を迎える。サピエンスは消え去る。ホモ・デウスへアップグレードする。

ホモ・サピエンスは何者か、人間至上主義はどのようにして世界宗教になったのか、人間至上主義の夢を実現を目指すとなぜ崩壊を引き起こす可能性が高いのか。

2、人新世(じんしんせい)

聖書では、ヘビの言うことを聞いてはいけない、動物や植物と話してはならないと教える。しかしセム語派のほとんどの言語で「イヴ」は「ヘビ」、あるいは「メスのヘビ」を意味する。つまりヘビは敵ではなく、祖先。

情動は人間だけの特性ではない。情動は生化学的なアルゴリズムですべて哺乳類の生存と繁殖に不可欠である。感覚や情動はアルゴリズムである。

「mammal(哺乳動物)」はラテン語で「乳房」を意味する「mamma」に由来する。母親は子供が乳を吸うのを許す。子供も母と絆を結びたいと思い母の側にとどまる。

有神論の宗教は、世界はさまざまな生き物からなる議会ではなく、偉大な神々あるいは唯一神が支配する神政国家だと主張した。ユダヤ教の収穫を祝う祭日は、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、その他の動物が生贄にされ、食肉処理場、バーベキュー店のようだった。

有神論の新しいドラマでは、サピエンスが主人公になり、神羅万象がサピエンスを中心に回り始めた(ジャイナ教、仏教、ヒンドゥー教は、人間とそれ以外の生態系とのつながりを強調する)。

そして農場が、新しい社会の原型になる。うのぼれた主人公、搾取するのがふさわしい劣等人種、絶滅される野生動物、そして天上の神が揃っていた。太古の狩猟採集民は単なる動物の種の一つに過ぎなかった、農耕民は自らを神羅万象の頂点と考えた、そしていま、科学者たちは人間を神へとアップグレードさせる。