新聞は信用できません。「スターリン時代」と「ウクライナ問題」での朝日の主張は正反対ですが、よく似ています。

THE TED TIMES 2022-14「スターリン」 4/22編集長 大沢達男

 

新聞は信用できません。「スターリン時代」と「ウクライナ問題」での朝日の主張は正反対ですが、よく似ています。

 

1、スターリン

1953年3月ソ連の最高指導者スターリンが死んだとき、私は小学校3年生9歳でした。いまでも、そのときに受けた衝撃を、はっきりと覚えています。

「世界はいったいどうなってしまうのだろう?」「ソ連の指導者だけでなく、人類の指導者であるスターリンが死んだら、私たちはどう生きていけばいいの?」

私の父は共産主義者でもなんでもなく、書棚にマルクス・エンゲルス全集があるわけでもなく、東京・下町の時計職人でした。

父から、共産主義スターリンの偉大さについて、教え込まれていたわけではありません。

でも私は、スターリンだけでなく、ソ連のファンでした。

1956年にソ連は人類初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功します。

そしてライカ犬人工衛星に乗せ打ち上げ、さらに1961年4月ユーリイ・ガガーリンを乗せた人工衛星・ボストークの打ち上げ、

加えてボストーク6号には女性宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコアを搭乗させます。

1956年のメルボルン・オリンピックのソ連は、陸上競技5000m、10,000mでウラジミール・クーツが2冠達成、女子体操でラリサ・ラチニナが個人総合で優勝、メダル獲得数で米国を抑えトップに立っています。

宇宙開発でも、スポーツでも、ソ連は米国より強い。私のソ連びいきはさらに強化されました。

今でも、クーツやラチニナの名前を覚えていることからも、このことは証明されます。

なぜ私が、ソ連ファンになったのでしょう? 簡単です。朝日新聞を読んでいたからです。

朝日が、ソ連に無批判なベタボメする記事を、書いていたからです

インターネットはもちろん、テレビのない時代、9歳の私は朝日新聞共産主義に洗脳されていました。

 

2、1953年3月7日朝日新聞社

1953年3月5日(日本時間3月6日)スターリンは死去します。

それをうけて朝日新聞は3月7日夕刊の「こども欄」で、スターリンの生い立ちと生涯を、こども向けに紹介しています。

タイトル

<なくなったスターリン首相>。<子供ずきなおじさん>。<まずしかった少年時代>。

スターリンの生い立ちでは、父がクツを作る人で、工場につとめていて、家は貧しかったと紹介されます。

スターリンは、このまずしさのなかでそだったので、早くから、びんぼうな人にたいする、あたたかい同情(どうじょう)があったといいます。>

スターリンは長じて共産主義運動を始めます。

スターリンは、革命のためにかつどうをはじめ、とらわれてシベリアに流されたり、むかしの皇帝(こうてい)のおさめていたロシア帝国(ていこく)をたおして、いまのソヴィエト社会主義連邦(れんぽう)をつくるためにかくやくしました。>

そして以下のように結ばれています。

<ソヴィエトの国をうちたてたレーニンのすがたは、いまでも生けるように、モスクワの「赤い広場(ひろば)」のレーニンびょうにまつられ、花にうもれてからだをよこたえていますが、スターリンのすがたもまた、おなじようにのこされて、ながくソヴィエトの人びとの、こころのともしびになることでしょう。>

朝日のこども欄は、ルビの打ち方から、小学校の低学年をも対象にしています。

こんな共産主義賛美の思想教育は許されるのでしょうか。恥ずかしくなります。

もちろん朝日は子供向けだけなく、大人向けの社説でもスターリンの死を取り上げ、スターリンを絶賛しています。

まず3月5日の朝日新聞社説、タイトルは<スターリン重体>。

ソ連の国民生活のあらゆる面でソ連国民の敬愛の的であった。>

さらに3月7日、スターリン死去の翌日の朝日新聞の社説のタイトルは、<一つの時代去る>。

スターリンが)<永遠に去ったということの影響は、どんなに評価しても、過大になることはあり得ないほどであろう。>

スターリンソ連を評価する、最大限の表現をしています。

しかし、しかし・・・。

1956年に、スターリンの葬儀委員長を務め、その後第一書記になったニキータ・フルシチョフによる、「スターリン批判」が、始まります。

スターリンは人類の未来を担う、偉大な指導者ではなく、<拷問と虐殺の恐怖政治の人であった>ことが暴露されます。

<子供ずきのおじさん>???とんでもない話です。

そして1991年にソ連崩壊は崩壊します。

 

3、2022年2月25日朝日新聞社

スターリン時代に「ソ連の肩を持った新聞」は、今のウクライナ問題で正反対ですが、似たような主張をしています。

朝日新聞は、プーチンの「ロシアを批判する新聞」、ゼレンスキーの「ウクライナの肩を持つ新聞」になっています。

スターリン時代は「社会主義へのあこがれ」からソ連賛美に、そして現在は「リベラリズム帝国主義」からのプーチンのロシア批判です。

2022年2月25日の朝日新聞社

タイトル<ロシアのウクライナ侵攻><秩序と民主を侵す暴挙だ>

ロシアのウクライナへの軍事侵攻は断じて容認できない、という強い調子の社説です。

侵攻の原因はプーチンの独裁である。<20年以上権力を握るプーチン氏のもとで「独裁」ができあがった。今回もロシア国民の多くは戦争を望んでいない・・・>。

<西側の「民主主義」体制が流入すれば、ロシアでの自らの支配体制を揺るがしかねない>。だからロシアはウクライナに侵攻した。つまり世界の「自由と民主主義」踏みにじられていると論旨を展開します。

そしてロシアに「理性」を取り戻させる必要があると結びます。

まず、朝日が「反」ロシアの新聞であることに驚きます。

つぎに、なぜロシアがウクライナを攻めているのか、その理由が全く説明されていません。プーチンの主張に耳を傾けようともしていません。

一刀両断、<民意を無視した「独裁」>、でおしまいです。

つぎに、2022年3月3日の朝日新聞社説。

タイトル<ロシアの侵略><反戦のうねりに連帯を>

<「平和」は人間のすべての営みの基盤である。>

<国際社会が何より勇気づけられるのは、ロシア国民からも相次ぐ「戦争ノー」の声である。>

戦争が好きな人はいません。立ち上がらなくてならない時に人は戦います。マルクスは人類の歴史は階級「闘争」の歴史であると言っているではありませんか。

そして、3月7日の朝日新聞社説。

タイトル<ロシアの戦争><報道弾圧を中止せよ>

<新聞やテレビが国家の広報機関に成り下がっていたソ連時代に時計の針を戻すつもりか。>

<日本でも先の大戦時、朝日新聞を含む各報道機関が大本営発表を流し続け、破滅的な敗戦を招いた。ロシアの現状を同時代の教訓とし、公正な事実を伝える使命の遂行を誓う。>

逆にお聞きしたいです。NATOは「リベラリズム帝国主義」で侵略を繰り返していませんか。朝日の主張は偏向していませんか

大本営」より、戦後の朝日は「GHQ」ベッタリの報道をしてきませんでしたか。なぜ、「大東亜戦争」を「太平洋戦争」というのですか。朝日は、GHQに販売停止を喰らって以来、西欧流のリベラリズムの新聞になったのではないですか。

そしてスターリン時代のソ連偏向、共産主義的な報道をどう反省しているんですか。

朝日は何も考えずに、「民主主義」、「自由」、「理性」のリベラリズムの主張をしています。

「リベラズム帝国主義」とは、ヨラム・ハゾニーの言葉です。ハゾニーは、カントの「世界平和」、ロックの「自由・平等」を批判し、リベラリズムの屋台骨を崩壊させています。

『サピエンス全史』(ウヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社)も同じです。自由・平等の基本的人権、西欧民主主義を「白人帝国主義」と断じています。

つまり朝日の論説委員は、鎖国をしていて世界の街を歩いていない、のではないでしょうか。

 

4、エマニュエル・トッド

さてここからが、本題です。

ロシア否定、ウクライナ支持、朝日新聞の論調と全く対立する議論を、歴史人口学者・エマニュエル・トッドが展開しています。

ウクライナの戦争の責任は誰にあるのか。><米国とNATOにある。>

トッドは、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマーの言葉を引用しながら、明言します(「日本核武装のすすめ」 エマニュエル・トッド 『文藝春秋』2022.5)。

なぜなら、「ウクライナNATO入りは絶対に許されない」とロシアは明確に警告を発してきたにもかかわらず、西側が無視したからです。

NATOを1センチといえども拡大しないとの約束を破り、旧東欧圏を侵略してきたからです。リベラリズム帝国主義です。

そしてついにウクライナNATOの事実上の加盟国になりました。

英が兵器を送り、軍事顧問団を送り、ウクライナ武装化してきました。ウクライナ軍の予想を上回る抵抗は、米英の軍事支援の成果です。

トッドはすでに第三次世界大戦は始まったと見ています。

ロシアと戦っているのは、米国の軍事衛星に支えれれた軍隊で、ロシアは米国と軍事的に衝突しています。

強いロシアが弱いウクライナを攻撃しているのではなく、「弱いロシアが強い米国」に反撃しています。

トッドは、ロシアは共同体家族、ウクライナ核家族と分類します。

そしてウクライナには国家が存在しない、「反ロシア」にアイデンティティーを見出し、ナショナリストでニヒリストの武闘派になっている、この戦争によって「国として生きる意味」を見いだした悲しい人たちと、言います。

一方で暴力を批判する西欧も無責任で卑怯だとします(なんとなれば、自由と民主主義を広めることは正義だと、信じ切っているからです)。

ウクライナを軍事支援をし、ロシアから天然ガスの供給を受けながらの、経済制裁も欺瞞に満ちています。

さて今後どうなるか。

まずプーチン。狂っていると言われますが、ロシアの行動は合理的で暴力的です。予測可能です。

つぎに欧州。卑怯であっても予測可能。

予測不能なのは、ウクライナポーランド

そしてそれ以上に予測不能で、リスクとなりうるのは米国であると指摘します。

米国の歴史は、アフガニスタンイラク、シリア、ウクライナと戦争と軍事介入の歴史です。

リベラリズムvs.ナショナリズム第三次世界大戦は米国の出方で決まります。

***

トッドはウクライナ問題の結論として、日本は核を持って国家として自律しなさい、提言します。

「核共有」、「核の傘」は幻想でしかないからです。

そして対露制裁はほどほどに、中国とロシアは日本の隣にあります。中国との均衡をとるために、日本はロシアを必要とするのです。

(end)